多様になる生計

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 税金への対応が求められるのは相続時だけではない。自家で不動産を営むことを「人様の稼ぎを頂く」と表現する、ある農家の主人は、農業所得だけでは税金の支払いが困難であるという。地価や税金の高さに合わせて、農作物が高く売れるわけではない。このような状況の下、年間数百万円にのぼる税金(固定資産税・住民税等)と生活費をまかなうだけの収入を農業から得ることは難しく、昔は堅実にやっていけば次の代に農業を引き継ぐことができたが、現在はとても引き継げないと語る。この家では不動産からの所得はそのまま税金の支払いにあてられている。
 ここでいう不動産とは、この農家が農地を転用して建てた賃貸住宅のことを指している。宅地開発が進む過程で、農家のなかにはアパートやマンション、あるいは駐車場といった不動産を営む家がみられるようになった。現在、畑に隣接する賃貸住宅や駐車場に立てられている看板をみると、時々、経営者である農家の名字に由来するであろう同じ名称を、続けていくつか見かけることがある。こうした命名のあり方からも、不動産を手がけていく農家の動きがうかがわれる。また、不動産のほか、家族のうちに勤め人となり、稼ぎを得る者もみられるようになっている。
 このように農業と合わせて不動産を営むようになった家でお話をうかがっていると、時に、駐車場やアパートの利用状況に影響を与える要因として、若者の経済状況や車に対する関心の度合、また人口減少といった社会全体の動きに話が及ぶことがある。生計のあり方が変わることで、農家が日々の生活のなかで関心を寄せる対象も変わりつつある。