サツマアナからウドムロへ

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 果樹が導入されていく一方で、野菜栽培を農業経営の中心にすえた家では、市場への出荷を前提として、商品価値を高めるための工夫や技術の導入がはかられてきた。その様子を、ウド栽培を例にみてみよう。
 四~五月頃、株分けしたウドの根株が畑に植えられる(図10-10)。連作障害がおきるため、定期的に位置が変えられたウド畑は、ウドを二年間作った後、三~五年ほど間をあける必要があった。休ませている間には、じゃがいもや里いもなどが作られていたが、畑の減少とともにウドの輪作も難しくなったという。

図10-10

向かって右側がウド、左側が里いも。南北にサクがきられ、まとまった量が作付けられている 小川町(2010.7)

 冬、茎や葉が枯れると、育った根株を掘りとり、地下にあるウドムロ(軟化ムロ)に植え替えた。鍬で根株を掘り起こしていた頃は、ウドの根を一本でも切り残していると堀り上がらず、一日に百株ほどしか掘れなかったが、トラクターを使うようになってからは一時間の作業で一反分掘れるようになった。
 ウドムロのなかで八十センチほどに芽が伸びると収穫である。四キロ入りの箱に詰めて出荷されたが、ヒトアナで二百~二百三十箱ほどになった。
 ウドムロは、もともとはさつまいもなどを保管するためのアナグラ、サツマアナであった。深さ三メートルほどの縦穴の底部から、高さ約一メートル、しゃがんだ状態でも頭をぶつけるほどの横穴が三~四本ほど伸びた形状のものである。このサツマアナは、ウドを移植するには、横穴の高さも奥行きも不足していた。そのためウドムロに転用するにあたって掘り直された。ある家では、サツマアナをウドムロへ作り変える時に、穴から土を上げる作業の機械操作を子どもに手伝ってもらったという。
 ウドムロに根株を入れてから出荷するまでに約一か月ほどかかる。ウドムロ内の温度が二十度ほどになると芽が出る。常温は十四、五度であるため、一斗缶に入れた薪を、ムロのなかで三~四日、寒暖計を確認しつつ燃して暖めた。火を入れている間は、空気を入れ替える時を除いて穴の蓋は閉めたが、気温が上がってくると半分だけ開けた。