愛着のある作物

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 大根栽培に力を入れていたこの家では種を自家採取し、品評会にも出品していたが、家が変われば、思い入れがある作物も変わることになる。
「これ(つる有りインゲン)は売れますよ。昔からのインゲンでうちのは。柔らかくてね。品種がいいんですよ。自慢じゃないけど、これは。柔らかくて。色がよくて。やっぱし、昔からのものがいいやね。あとはサヤエンドウぐらいだよね。サヤエンドウはもう寿命短いからね。うちはエダマメやんない。場所がない。あれは束で売るから。一本いくらで売るんじゃない、束だから。だからもう場所がないといけない。場所の問題もあるんだよね。うちなんかは。柿をやっちゃってるからさ。畑そのものが少なくなってるから。作る気になりゃできるのよね。他のもの減らせばいいんだけどさ。」
 このように主人が語る大沼町の農家では、つる有りインゲンに他の作物とは異なる想いが込められているようである。また、栽培作物の選択にあたって果樹栽培と畑作の割合が考慮されている様子もうかがえる(同家の作付の詳細については図10-12)。小川町と大沼町の二つの生産組合に属する家々を引き合いに出す形で先に述べた、個性ある作付は、こうした栽培作物に対する想いや農地の利用形態に裏打ちされたものでもある。
図10-12(1/2)
図10-12(1/2) 農事日誌に書かれた作付計画図
東京街道沿いのある農家の作付計画。「農事日誌」(個人蔵)より作成。作物の並び順は作付位置を、本数は畝もしくは株の数を示す。母屋の後背に作業小屋等が配され、八反歩ほどの農地を東西に二分するようにハラミチがのび、畑の南側半分には柿が、北側半分には野菜が育てられている

図10-12(2/2)
図10-12(2/2) 農事日誌に書かれた作付計画図
原図でも四区画のそれぞれに作物名と数量を記載するという形が基本である。図の記載をたどっていくことで、一年の農作物の推移や、年単位での転作の様子がうかがえる。作物名の表記は原資料に従った