土地割内の運搬

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 母屋の背後に細長く伸びた短冊状の耕地は、近世には、屋敷地からの距離に応じて、近い位置にある畑は下畑、遠くにある畑は下々畑と層をなすように区別されていた。屋敷地に近いほど、農作業の能率が上がるため集約的に利用されてきたという。現在は、基本的には距離にかかわらず、耕地の評価や土地利用は均質になっているが、第一節で土地利用を紹介した農家のように、ウチゴと呼ぶ母屋に近い位置の畑に、ビニールハウスを建てる例も見られる。母屋から離れた位置にある果樹園のなかに、幹に結びつける形で道具が置かれたり(図10-15)、道具置き場が用意されている例も、同様に屋敷地からの距離に関係しての作業能率への配慮であろう。
図10-15
図10-15
ブドウの幹に道具を結びつける市域中央部(2011.4)

 屋敷地と畑の間の運搬には、現在もリヤカーがよく使われている(図10-16)。リヤカーは、畑のなかで堆肥の運搬などに使用されるほか、市場まで農作物を運ぶときや、飛地へ畑仕事に出かけるときにも引いて行かれるものだった。外での運搬具としてのリヤカーの役割は、昭和三十年代頃からオート三輪が普及するとともに薄れていくが、各家の畑では、現在もしばしば利用されている。リヤカーを三台ほど持っている昭和九年生まれの男性は、敷地内に設置された直売所まで品物を運ぶ際にリヤカーを使う。ただ、彼の息子さんはあまりリヤカーを使わないという。使用する道具の選択には世代差もみられる。

図10-16
畑のなかの運搬と移動に 花小金井(2009.6)


 畑の縁の雑草取りには一輪車が使われている。雑草の根についた土を落とし、一輪車で畑の一角に掘られた穴まで運び入れた。独自に運搬具が製作される場合もある。図10-17①は農家の依頼を受けてブリキ屋が作った台車である。後輪は一輪車についていたタイヤを流用したものである。依頼主の希望を踏まえて、前後の両方に持ち手がついている点に特長があり、進行方向にあわせて持ち手をかえることで台車を反転することなく行き来できるように工夫されている。
 このように個々の農家の要望に形を与えていく存在のひとつがブリキ屋であった。ある家では「ブリキ屋さんがいたから、道具が早かった」という。ブリキ屋のような存在が農家の周りにみられるようになったことは、様々な農業資材がメーカーによって開発され、既製の資材が農作業の現場に行き渡っていくのとはまた別の、農家の道具まわりの環境変化のひとつであろう。