手製の道具

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 農作業に対する個々の農家の考えや希望は、道具の製作依頼のほか、身のまわりの資材や物を用いて手製の道具を揃えていく過程でも、折に触れて形にされてきた。
 例えば、植付や播種の間隔のとり方をみてみよう。大麦の畝間にゴボウを蒔くときの間隔は十~十三センチほどである。あいだを広くあけるとゴボウは太くなる。この間隔をとるために、ある家では自転車を転用した道具を用意した。分解した自転車の前輪とハンドルを使ったもので、チューブを外した前輪に、一定の間隔をおいて木端が釘で打ちつけられている。ハンドルを持ち、前輪を転がしながら進むことで、車輪についた木端が一定間隔ごとに播種の目安となる跡を畑につけていく仕組みである。
 次頁、図10-17⑤は同じように播種や定植の目安を得るために、雨戸の一部を利用して作られた道具で、棒に一尺間隔に木端が打ちつけられている。図中の木端の間隔はじゃがいもの植付に合わせてある。この道具の右隣にある二本の棒状の道具(同図②④)も播種・定植のための穴を開けるもので同図⑦のように使う。棒の先端に付けられた返しの位置によって穴の深さが変わる。図10-17④は昭和八年生まれのご主人が作られたもの。その隣にある同図②は彼の息子さんが作られたものである。取手が付けられ、先端が四角になっている。これは同図③に示した育苗トレイからの定植を想定し、トレイのひと枡の大きさと形を揃えているからである。播種・定植のための跡をつけるという基本的な機能はなぞりつつ、おのおのが作業しやすいように道具の細部に気が配られていく。
図10-17
図10-17
農具にみる農家の個性。Hは最大高を、Wは最大幅を意味する。単位はミリ

 こうした道具の自作の例は農家の日常の随所にみられ、また市販品の改良も行われている。例えば図10-18は畝を覆うマルチに播種・植付のため穴を開けていくための道具である。円筒の先に並んでいる歯をマルチへ押し当てるようにして使う。同図①が市販の状態のままのもの、同図②が市販品に農家が手を加えたものである。①を使用ときる時には、取手を持ち屈(かが)んだ姿勢で歯を押し付けなくてはならない。そこで立ったまま歯を押し付けられるように、持ち主によって柄が取り付けられたのが②である。
図10-18
図10-18
マルチの穴あけ。左が市販品、右が加工後。Hは最大高を、Wは最大幅を意味する。単位はミリ