麦と陸稲のワラ

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 麦が小平の主要な作物となっていた頃、そのワラは屋根葺きや堆肥、敷ワラなどに用いられており、腐りやすさ、固さといった質の違いを踏まえて、小麦と大麦のワラが用途に応じて使い分けられていた。前述のとおり作付面積が大幅に減った麦であるが、風よけ・土留め・緑肥とするために、現在も畑の際や作業道際、畑の一部に植えられている(図10-24)。三~四月を中心に吹いた強い風は、畑の土を巻き込んで目を開いて歩けないほどであった。そのため、空き地となった畑の土が飛ばないように、大麦が作られる。大麦はワラが柔らかいため、トラクターでそのまま鋤きこんで緑肥とすることができ、なかにはチッパーにかけて粉砕する家もあった。緑肥に使う麦は穂が出る前に畑にすきこんだほうがよいとされている。

図10-24
列状に植えられた麦 小川町(2010.5)


 ある家では、敷ワラのかわりにゴザやマルチを使用したことがあったが、カボチャなどを作った場合に蔓(つる)が絡まなかったため、元の敷ワラに戻したという。この敷ワラを得るために、一部の畑で陸稲が作られている。自家食用に栽培され、冬場にはミズモチとして保存食にもなった陸稲が、食用ではなく、ワラを利用するために栽培されているのである。糯(もち)種の陸稲を作っているある家では、五月中旬までが播種期であるが、遅く蒔けば実があまりつかないだろうと予測し、平成二十一年には六月十日頃に蒔いている。育てる目的が変わることで播種の時期が変化した一例といえるだろう。
 麦や陸稲の生産を続ける家がある一方で、稲ワラを市外から運び込む家もみられるようになった。三年かけて自家の全ての梨畑に行き渡らせるほどの量の堆肥を作っているある家では、トラックで埼玉県まで稲ワラを買いつけに行っている。最近では収穫時に稲ワラを刻んでしまう大きなコンバインが使われるようになっているが、どの家でも使っているわけではないため、ワラを残すような小さいコンバインを使っている農家のところへ行っている。同じく埼玉県まで出かけた別の家では、小束で千個分、一抱えの束にして六十個分(一個あたり、小束十五個ほど)をトラックに山盛りいっぱい持ち帰った。
 家の外から農業のための諸材を運び入れること自体は決して新しいことではない。権利を買い、他家の雑木林へ堆肥に使う落葉を掃きに行くことは以前から行われていた。車を用いて稲ワラを調達する事例は、都市化にともなって、肥料の原料を得る場所や調達の手段、提供者が変わってきたことを示している。
 街路樹などの落葉の持ち込みもその一例になろうか。ただし街路樹の落葉には、腐りにくく堆肥に適さないイチョウの葉が混ざっていたり、小石が付着している場合もあり注意が必要であった。街路樹の落葉の場合、雨に濡れているとどうしても小石が付着する。小石を付けたまま畑に入れると根菜類は枝分かれしてしまう。街路樹の落葉を畑に利用するにあたって、こうした課題がでてくる背景には、街路樹の落葉掃きが農家の落葉利用を第一の目的として行われる営みではないこと、農家が自ら行ったヤマでの落葉掃きと違い、街路樹の落葉掃きは別にそれを仕事とする人が行っていることも影響していよう。落葉の入手のあり方が変わるとともに、新たな課題への対応も求められることになる。