作付が変わるとき

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 ここで述べたお客の層や好み、直売所に向けられる眼差しを的確に把握し、きめ細かく対応することは、それによって売上がかわるだけに、庭売り直売の営み方を方向づける基軸のひとつとなっている。実は、この軸に沿って新しい作物が導入されることで作付も変化してきた。お客との関係性は、農業そのもののありかたも変えてきたことになる。
「最初は市場出しだったから。そこから(ニワサキへと)多少広げてきて。ピーマン、シシトウも作ってなかったんだよ。近所の人とのコミュニケーションのなかで。トウモロコシやエダマメなんて、当時、積極的に作って市場に出そうということは、やってなかったはずだから。」
 主人がこう語る大沼町の直売所では、需要に応える形で多品種化が進んだようだ。もとより庭売り直売自体は、玄関先で一、二種の品を売るような小規模なものも含めて、多様な形態を成り立たせることで現在まで維持されてきており、多品種化はそこにおける指向のひとつということになる。
 一方、栽培方法をみると、庭売り直売にあわせて、時差蒔きが積極的に行われるようになっている(図10-39)。トウモロコシを例にその様子をみてみよう。

図10-39
枝を境に播種日が異なる 小平市中央部(2010.5)


「トウモロコシは季節物で、(販売期間は)出始めから三週間ほど。作れないことはないが、無理して作ると虫がついたりする。へたに育ちがいいとすぐなくなっちゃうし、よく出しすぎるのもダメ。コンスタントに適量を店先に出し続けるのが難しいところ。ニワサキだから、何日かおきに出せるように作らないといけない。時差蒔き、時差植え。トマト二回、トウモロコシ六回、エダマメ三回に分けている。市場でも契約栽培だといっぺんに作って出せるが、ニワサキではそうもいかない。」
 別の例になるが、夏休み前にトウモロコシを全部売りきれるように計画的に育てている家もあった。夏休みに入ると地方へ帰省するお客も多く、売れゆきが落ちるからである。お客と売上げの動向に応じて、何をいつどのくらい作るかが可能な範囲で調整されているといえよう。
 出荷時期を調整することの重要性は、前節でも触れたように市場出荷の場合にも一般的にあてはまることだが、少量多品種の農作物を持続的に直売所に並べられるよう、畝単位で播種時期を管理しているところに、庭売り直売に際しての時差植えの特徴をみてとることができる。
 さて、農作物の販売方法に合わせて日々の農作業が変わるのは、庭売り直売に限ったことではなかった。生活協同組合の契約農家となっているある家では、四月初めには作付会議に、九月には収穫会議に参加している。こうした打ち合わせを通じて依頼主と調整を図るなか、農家の作業のありようも変わってくる。例えば、それまで野菜の仕分けは集荷先で行われていたが、農家のほうで事前に仕分けることはできないだろうかという依頼主側の提案に応じて、何人かでグループを作って仕分け作業にあたり、それを集荷するようになっている。
 また、市場出荷の場合も、大規模、低価格な輸入品の流入による市場の状況変化に応じて、農家側も作付を再考している。小平市西部のある家では、以前は様々な農作物を作っていたが、貿易自由化の影響で収益率の良いウドと里いもを集中して作るようになったという。