「出百姓分」の開発

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つぎに、出百姓分についてみていこう。この場所の反別は、享保一六年(一七三一)名寄帳が作成された前後の段階で一七七町五反一畝二四歩であったが、元文元年(一七三六)検地により、一五四町一反八畝二四歩と確定した。
 出百姓分は文字どおり、原則として当地に居住する出百姓を各所より募って開発された。小川新田への出百姓=入村者は、小川家から短冊型の開発用地(「屋敷割」)を割渡され、そこに屋敷を建て、耕地をひらいていった。新田の土地を取得した人びとのなかには、他所からの出百姓ばかりでなく、小川村に居住する者で分家・独立を目指す者、または生活に比較的余裕があり、さらなる土地の獲得を目指す者もみられた。後者の場合、自らは新田に入村せず、代わりに「屋守(やもり)」(家守ともいう)を雇用し、入村させた。
 屋守とは、地主である小川村の百姓に代わり、短冊型の屋敷割を管理する者たちである。五~一〇年を年季とし、その間、新田に課される諸役を負担する代わりに、五反歩~一町歩の土地を無年貢で開発し耕作させてもらい、年季が明ければ土地を返し帰村することになっていた。つまり、地主が行うべき開発を代行する奉公人のような存在であった。他方、地主である小川村の百姓が屋守を雇用したのは、新田に屋敷割を取得したものの、現実的にはその開発や耕作に手がまわらなかったためだろう。
 こうした屋守を含む出百姓の入村にあたっては、小川村の場合と同様、出百姓本人や出身村の村役人、家族、親類、五人組、菩提寺などの関係者から小川家に対し、出百姓の身元を保証する入村請書が提出された(本章第一節)。現在残っている請書より出百姓の一覧を示すと、表1-11のとおりとなる。小川村の住人が新田に転居する事例は、証文が作成されなかったためか、一例も現れないが、享保二〇年までの段階で、少なくとも小川村を除く一一か村から出百姓が集まってきていたことがわかる。
表1-11 小川新田への出百姓
No.年代入村者名出身村属性
1享保10(1725)茂右衛門根ケ布村(現青梅市)
2享保10(1725)伊右衛門根ケ布村
3享保10(1725)忠兵衛下村(現青梅市)
4享保11(1726)源兵衛石神井村(現練馬区)
5享保12(1727)次郎右衛門奈良橋村(現東大和市)
6享保12(1727)太郎兵衛根ケ布村八郎右衛門屋守
7享保13(1728)六兵衛下成木村(現青梅市)
8享保14(1729)由兵衛下名栗村(現埼玉県飯能市)平兵衛屋守
9享保14(1729)市郎左衛門下名栗村八郎兵衛屋守
10享保14(1729)平左衛門下名栗村彦三郎屋守
11享保14(1729)市郎右衛門南小曾木村(現青梅市)忠兵衛屋守
12享保14(1729)喜右衛門根ケ布村又右衛門屋守
13享保14(1729)九郎左衛門黒沢村(現青梅市)源内屋守
14享保14(1729)加兵衛上名栗村(現埼玉県飯能市)半左衛門屋守
15享保14(1729)孫左衛門坂元村(現埼玉県飯能市)
16享保15(1730)政右衛門下奥富村(現埼玉県狭山市)
17享保20(1735)清左衛門下奥富村
『小平の歴史を拓く』(下)p.77の表をもとに作成。

 小川新田への出百姓数の推移は、享保一四・五年の「出百姓書上」という帳面から、おおむね知ることができる。それによれば、享保一一年までに一一軒、同一二年に六軒、同一三年に五軒、同一四年に四九軒、同一五年三~一一月に三軒の出百姓があったようであり、この間の出百姓数は延べ七四軒となる。享保一四年に、それまでとくらべ、突出した数の出百姓(四六軒)が入村しているのには、幕府の助成政策もさることながら、この年に小川分水が延長され、小川新田でも飲料水が確保できるようになったことがあった。そして、元文四年の「南北武蔵野出百姓草分(くさわけ)書出帳」という帳面には、小川新田の総軒数が八九軒、その内一八軒が「持添」とあることから、当時の出百姓数はこれを差し引いた、七一軒だったことが知られる(史料集一二、八三頁)。
 しかし、出百姓数は右肩上がりに増えたわけではなく、一方で、土地を手放し離村する者もあった。確認できる範囲では、享保一八年で二軒、同一九年で四軒、同二〇年で二軒、元文二年で二軒、同四・五年で一軒ずつの出百姓が土地を手放している。これらのなかには、屋守を雇用し、開発を請け負わせた小川村の百姓もいた。たとえば、小川村の忠兵衛は、享保一四年二月、南小曾木村(現青梅市)の市郎右衛門を五年季で屋守として入村させた。そして、年季が明けた直後の享保一九年三月、忠兵衛は屋敷割一か所(「南新田(みなみしんでん)」)を手放している(史料集一二、三四九頁)。このように、小川村に居住しつつ新田の屋敷割を取得した者のなかには、屋守の年季明けとともに、その土地を手放す者が少なくなかったと考えられる。