表1-34は、『新編武蔵風土記稿(しんぺんむさしふどきこう)』(以下、『風土記』とする)の内容を基礎にしながら、寺社の記事内容に焦点をしぼり作成したものである。『風土記』では、多摩郡には四〇か村が存在すると記されているが、数えてみると三九か村となっている。また表を概観すると、寺院記載のある新田は一六か村をこえるが、全体の半数以上に寺院がみられない。武蔵野新田(多摩郡に限る)では、半数以上が寺院をもたなかったことになる。これは個別の新田事情に関係する問題であるが、小平市域では廻り田新田を除いて寺院(二寺院の例もある)が存立していることと対照的である。また表をみると、寺院の宗派も天台・真言・臨済・曹洞・黄檗がみられ、各宗派が競合している。このことは仏教各宗派が、開発に伴って新たに寺院を創設させていったことを示していよう。
表1-34 武蔵野新田(多摩郡)寺社関係一覧 | |||||
No. | 村名 | 寺院名 | 宗派 (設立年次) | 神社名 (管理主体) | 備考 |
1 | 井口新田 | 蓮華寺 | 日蓮宗 | 八幡社(上井口村蓮華院持) | 蓮華寺は享保期設立。 |
2 | 境新田 | 記載なし | 第六天社(本村観音院持) | ||
3 | 野崎新田 | 記載なし | 記載なし | 享保年中に開く。 | |
4 | 深大寺新田 | 記載なし | 記載なし | 享保年中に開く。 | |
5 | 大澤新田 | 閻魔堂(本村長久寺持) | 青龍権現社(本村長久寺持) | 二つ塚があり。 | |
6 | 梶野新田 | 長昌寺 | 曹洞宗 | 白山社 | 開基梶野藤右衛門。 |
7 | 関前新田 | 記載なし | 享保年中に開く。 | ||
8 | 関野新田 | 真蔵院 | 真言宗 | 八幡社・天神社(真蔵院持) | 川崎平右衛門の石碑あり。 |
9 | 是政新田 | 記載なし | 仏刹なし | 神社なし | |
10 | 下小金井新田 | 記載なし | |||
11 | 貫井新田 | 記載なし | |||
12 | 鈴木新田 | 宝寿院 海岸寺 | 真言宗 臨済宗 | 小金井桜樹碑あり。 | |
13 | 廻り田新田 | 記載なし | 記載なし | 氷川社(宝暦五年二月、本村の修験三光院の勧請) | 元文元年検地あり。 |
14 | 本田新田 | 祥応寺 | 黄檗宗 | ||
15 | 恋ヶ窪新田 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 享保年中に開く。 |
16 | 上谷保新田 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 元文元年検地あり。 |
17 | 南野中新田 | 鳳林院 | 黄檗宗 | 神明社(村持)・八幡社(村民持) | 鳳林院の本堂北に毘沙門あり。鎮守にあたる。 |
18 | 北野中新田 | 延命寺 円成院 | 真言宗 黄檗宗 | 毘沙門社(円成院持)、弁天社諏訪社(円成院持)、 | 弁天社の傍らに玄要庵あり。円成院持ちの地蔵堂・観音堂あり。 |
19 | 前沢新田 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 元文元年上坂安左衛門支配。 |
20 | 柳久保新田 | 記載なし | 記載なし | 大神宮(百姓持)。 | 享保年中に開く。 |
21 | 田無新田 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 元文元年上坂安左衛門支配。 |
22 | 大沼田新田 | 泉蔵院 | 天台宗 | 稲荷社 | 泉蔵院の周辺に薬師堂・弁財天・秋葉社があり。 |
23 | 小川新田 | 平安院 | 臨済宗 | 熊野社 | 元文元年、検地を受ける。 |
24 | 中藤新田 | 観音寺 | 真言宗 | 記載なし | 薬師堂、観音寺持。 |
25 | <持添新田> | 記載なし | 記載なし | 諏訪社(鎮守)、稲荷社(鎮守、柴崎村神職宮本信濃持) | |
26 | 榎戸新田 | 弥陀堂 | 記載なし | 愛宕社 | 文化年中に造立した石灯篭がある。 |
27 | 平兵衛新田 | 記載なし | 記載なし | 稲荷社 | |
28 | 戸倉新田 | 満福寺 | 臨済宗 | 山王社 | |
29 | 内藤新田 | 記載なし | 記載なし | 山王社 | |
30 | 砂川前新田 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | |
31 | 砂川新田 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | |
32 | 芋久保新田 | 記載なし | 記載なし | 愛宕社(村持) | |
33 | 粟之洲新田 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | |
34 | 日野本郷新田 | 記載なし | 記載なし | 富士浅間社 | |
35 | 宮澤新田 | 記載なし | 記載なし | 稲荷社(村持) | |
36 | 殿ヶ谷新田 | 玉林寺 | 臨済宗 | 阿豆佐美天神社 | |
37 | 中里新田 | 林泉庵 | 臨済宗 | 神明稲荷合社 | 林泉庵は福生村青岩院持ち。 |
38 | 長谷部新田 | 記載なし | 記載なし | 愛宕社(村持) | |
39 | 下師岡新田 | 東善院 | 曹洞宗 | 記載なし | |
『新編武蔵風土記稿』より作成。 |
つぎに小平市域の六村についてみてみたい。鈴木新田(No.12)には海岸寺・宝寿院、廻り田新田(No.13)には寺院がなく、南野中新田(No.17)には鳳林院、北野中新田(No.18)には延命寺・円成院、大沼田新田に(No.22)は泉蔵院、小川新田(No.23)には平安院が確認できる。新田それぞれの個別の事情については後述するとして、少なくとも小平市域では、廻り田新田以外には寺院が創建され、新田に定着している。新田村の人びとは、出身村から離れ、新田での生活を遂行していくにあたり、寺院が必要になったとみられる。なお廻り田新田の人びとは、他村に位置した寺院の檀家となっている。さきに武蔵野新田においては寺院をもたない村の方が多いことを紹介したが、廻り田新田の例が、むしろ一般的であったことになる。
一方、表1-34では寺院よりも神社の記載が豊富であることもわかる。ただし、神社の管理運営については、僧侶や修験、百姓持、村持ちなど、多様なかたちが見てとれる。これは、当時の一般的な状況と同様であるが、小平市域では大沼田新田の稲荷社、表にはみられないが小川村の神明宮・山王社などが確認できる。廻り田新田でも氷川社が確認でき、修験三光院(さんこういん)の管理がうかがえる。
以上の状況をふまえつつ、ここでは、新田に創建された小川村・小川新田、大沼田新田、野中新田の順に、小平市域の状況を述べていくことにする。