円成院の二つの特徴

243 ~ 244 / 868ページ
子院や庵の存在と共に、円成院を捉えていくうえで、このほか二つの点にも注目しておきたい。一つが、円成院住職の立場に関するもの、二つは円成院の書籍管理をめぐる問題である。
 まず円成院住職が「格年御礼(かくねんおんれい)」の立場であることが確認されている。これは住職が江戸城への隔年御礼を実施していたことを示すものである。つまり隔年(二年に一度)に円成院住職が江戸城で徳川将軍にお目見していたことになる。この際、江戸に出向くと、住職は寺社奉行や海福寺(かいふくじ)、瑞聖寺(ずいしょうじ)へ献納金を上納している。このような徳川将軍への正月の御礼を年頭御礼といい、寺社奉行や江戸の有力寺院への金銭上納が行われた。なお、海福寺・瑞聖寺は、それぞれ白金・深川に位置した有力黄檗寺院として知られる。
 また円成院には、宝暦一三年(一七六三)に作成された「円成院常住書籍目録」(以下、書籍目録とする)が伝来している。これは円成院住職が保管していた禅関係の書籍類の書き上げである。巻末には、大堅の印が押されている。さまざまな書籍が書き上げられているが、たとえば臨済録(りんざいろく)という書籍については、「二代書入」との書き込みがみえる。これは円成院二代住職大堅の「書入」があることを意味する。つまり、当目録は禅籍のさまざまな情報を記したものと言えよう。また書籍の種類をみていくと、往生要集(おうじょうようしゅう)などのように禅関係に限らない書籍もみられる。また巻末には「箱之上段」という記述があり、禅籍の保管場所についての情報も確認できる。したがって、この目録は禅籍の種類及びその特徴・保管場所・数量などが列挙されたものにあたる。
 また、当目録記載の書籍の数量を数えると一八〇になる。このうち先にみたように複数冊のものもあり、書籍の数量は膨大なものとなる。そして、これらの書籍を僧侶が集め、柏禅庵に預けたことが記されている。柏禅庵は、先に示した子院などに居住した宗教者であり、この宗教者が書籍管理に携わっていたことを物語る。また記事には、当書籍の閲覧についての規則も示され、書籍の管理を確実にする旨が示されている。ここから想起できるのは、当書籍類が禅僧らの閲覧を前提にしている点である。なお、この書籍が、実際にどのように円成院住職以外の人びとと関係をもっていたかの詳細は不明であるが、円成院に書籍が保管されることで、周辺の人々が供覧していたことも推察される。それにしても、新田村に「禅」の知識が集まった場が創出されたことは、それ自体だけでも注目される例にあたろう。