代官の職務はおもに地方(じかた)(勘定方)と公事方(くじかた)とに分かれる。地方は課税(基礎的な税額に作柄(さくがら)や天候などによる控除を考慮して年貢額を決定する)と徴税(決定した税額を、恣意的に着服することのないように、厳密に証文と帳簿を作成し、複数の加印(かいん)を行って徴収する)がおもな仕事となる。公事方は警察・裁判事務であり、支配地域で発生した事件や訴訟について、勘定奉行の指揮のもと、手代などを派遣して調書を作成する。代官自身の裁判権はごく軽犯罪に限られており、基本的に審理は勘定所・評定所が行う。これらの代官の職務の実現のために発生する文書は膨大であり、代官の職務は幕府の定めた法と、同職間で作成された勤方(つとめかた)(マニュアル)によって厳密に規定されており、代官自身の裁量の幅はごく限られたものだった。時代劇にみられるような「悪代官」は、実際には、文書と法によって、発生する余地がほとんどなかったのである。