法令の伝達

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村には、支配領主から、村で守るべきことがらについての法令がたびたび出されていた。このうち、百姓が最も頻繁に聞く法令は、「五人組帳前書(ごにんぐみちょうまえがき)」であろう。「五人組帳」は、五人組制度を施行していた村で毎年作成されるのが基本であり、その前書き部分は、百姓が守るべき事柄を示した「法令集」となっていた。記載される法令の内容は、時期によって変化したが、寺子屋の教材にも用いられるなど、広く近世社会に浸透していった。
 五人組帳前書は、寄合(よりあい)の際、名主などによって、百姓への読み聞かせがおこなわれた。文化六年(一八〇九)三月、小川村で作成された「五人組御仕置帳(ごにんぐみおしおきちょう)」の前書きには、「この法度は村に写し置き、毎月一度、村の百姓全員が名主のもとへ寄り合い、名主が読み聞かせて法令を守るように」と書かれている(史料集二、九七頁)。実際に毎月、読み聞かせを行っていたかは不明だが、表向きはこのように決められていた。
 この文化六年の小川村の五人組帳前書には、年貢や金銀米銭にいたるまで必ず証文を作成して取引をすること、支配の添役人などが名主・百姓に対して依怙贔屓(えこひいき)や道理にはずれたことをしていたら遠慮なく伝えること、といった取引上の手続きや支配の問題、百姓・町人の衣服は絹・紬・木綿・麻布のものとすること、という日常生活にかかわる問題、また、捨て子があれば養育して必ず役所へ届けるように、といった人身保護の内容にいたるまで、さまざまな内容がふくまれていた。
 このほか、領主からの通達は「廻状(かいじょう)」という触書(ふれがき)によって伝えられた。廻状によってもたらされた内容は、村役人が「御用留(ごようどめ)」という帳簿を作成して、書き留めておいた(本章第九節、口絵9)。その内容は五人組帳前書と同じように、寄合の場などで百姓たちに読み聞かせを行ったと考えられる。