これまでみてきた各種の文書は、文字をしたためるだけではなく、捺印によって完成するものが多い。文書の作成は村役人を中心として行っており、たとえば村明細帳など領主へ提出する帳簿には村役人の印が必要であった。大沼田新田の弥左衛門から伝兵衛への書状には、印の貸借を目的としたものが散見する。村役人にとっては文書の作成に加え、文書の様式を整えるためにも、必要な百姓の印を揃えることが重要な役割の一つとなっていたのである。また、宗門帳など村の百姓全員の名を記す帳簿などは、村役人だけではなく小前百姓の印も必要であった。近世の百姓は一般的に家ごとに印を持っており、一七世紀中期頃には印の所持が定着していた。そのなかで、小前百姓が直接文書にかかわるのは、捺印を通してであり、彼らが文書のうえで意思を示すのは捺印の部分のみであったともいえよう。ここでは、近世の村の文書と印、および捺印のようすについて、特徴的な事例と共にみていこう。