近世の文書がもたらしたもの

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近世は文書を大量に作成するようになった時代である。当初は領主からの指示によって各文書の雛形が提示され、それにしたがうように、村では文書を作成した。一方で、村では領主への提出文書のみを作成するのではなく、村独自の文書を作成しており、またそれらを意識的に保存し、管理していた。村は主体的に必要な文書を作成し、自らの考えによって確認することもあった。それは村を安定的に存続させるための手段の一つでもあった。近世文書社会における、村役人を中心とした村の主体的な文書作成と利用、保存のあり方には、村の安定化をめざすすがたがみられよう。
 また百姓の印や捺印は、近世以前にはあまり文書にも現れなかった、村役人以外の一般の百姓の意思をも示すものとして注目される。百姓は自らの意思を捺印で示しながら、権利や立場を守っていった。
 近世の文書は、保存、利用されながら現在の私たちのもとに残されてきた。文書の伝えられ方、利用のされ方などをみることで、私たちは当時の人びとのあり方や心情を読み取るための、より多くの手がかりをえることができるといえよう。