これから皆さんに読んでいただく近現代編について、前もって次の二つのことを頭に入れておいてくださると読みやすいと思います。
先に書きましたように、市史編さんの過程で市内の悉皆調査に心がけ、かなり多くの史料を収集し、『小平市史料集 近現代編』を編集するとともに、史料を検討し、小平の近現代の歴史の理解を深めてきました。市史編さん委員のなかの近現代担当と調査専門委員は、何度も集まっては史料の検討にもとづく小平の近現代史像について話し合ってきました。そこから、小平の歴史には、今まで指摘されてきた「開発」の特徴だけでなく、もう二つ大事な特徴があることに気づきました。「改良」と「福祉」です。
「改良」は江戸時代にはなかった言葉であり、明治前期の小平では、自由民権運動や殖産興業政策にかかわって、「改良進歩」などのかたちでしきりに使われています。「改良」は、一九三〇年代から一九五〇年代にも「農事改良」や「生活改良」のかたちで使われています。小平の近現代史を理解するうえで、この「改良」が大事な意味をもっていると考え、本編のなかで「改良」の特徴に随時ふれています。
もう一つが「福祉」です。「福祉」はどの地域でも一九七〇年代ころから重視されるようになった政策テーマですが、小平では、「福祉」がとりわけ重要な意味をもったと考えています。小平では、一九七〇年代に「福祉」が重要な意味をもつうえで、欠かせない前史があり、その前史をふまえ、一九七〇年代に入ると、小平市が福祉行政に取り組むだけでなく、地域のなかで福祉を熱心にすすめるグループが誕生しました。「福祉」をめぐる歴史は、小平の近現代の歴史の理解にとって欠かせないテーマだと考えています。
皆さんに読んでいただく近現代編は、「開発」と「改良」と「福祉」の三つのテーマについて随所でふれながら叙述し、三つの特徴を大きな手がかりとして小平の近現代像のアウトラインを描いています。この点を念頭において、近現代編をぜひ読んでください。
「開発」「改良」「福祉」の三つのテーマが小平の近現代の歴史の流れを理解する鍵であるとすれば、各時代の「くらし」を明らかにするために気をつけたこと、工夫したことが四つあります。
第一に、「くらし」の特徴を明らかにするだけでなく、「くらし」にかかわる行政や民間の諸団体、運動などをまとめて検討することで、「くらしを支える仕組み」を明らかにし、「くらしを支える仕組み」の歴史的な変化を解明しようとしたことです。第二は、公職につかなかった人びとを含めて、小平の歴史に刻まれた人びとの足跡をしっかり描こうとしたことであり、第三は、小平という地域の歴史に関する人びとの意識の変遷を追求したことであり、第四は、人びとの「定着」と同時に「移動」の視点で小平の近現代の歴史を理解しようとしたことです。
以上の四つのうち、第一の「くらしを支える仕組み」は各章に必ず節として入れてあります。第二は、近現代編全体にわたって意識したことです。第三は、とくに戦後の第五章から第八章までに節を設けました。第四は、戦前の第四章と戦後の第六章に二つの節を設定してあります。これらの諸点は、いずれも各時代の「くらし」を理解するために工夫した事柄です。