「小平村」成立の際に、地元からどのような要望が出たかについては、史料がなく不明である。「小平」という地名についても、それがどのような経緯でつけられたのかについて語る当時の史料は残されていない。今、見ることができる一番古い史料は、「大正七年十一月一日現在に依り新簿を調製す」と記された『村吏員村会議員名簿』のなかに書かれた「市区町村の沿革」の記事である。そこには「四方平らかなる意と小川の小の字を取り小平と称せるものなり」と書かれている(近現代編史料集⑤ No.三一)。
新たに生まれた村は、それまでの村と区別して「行政村」と呼ばれることがある。明治国家が兵事、徴税、教育などの国家の行政事務を遂行するために、上から設定した地域の枠組みであったからである。小平の地域は、それまでにさまざまな地域のつながりをつくってきた。第一章で述べたように、大まかにいえば小川地域と野中地域に分かれるが、郡区町村編制法下ではいくつかの連合村の試みがあり、地価修正反対運動の際には小川村を除いた武蔵野新田でのまとまりを強めるなど、地域の枠組みは流動的であった。それがこのとき、「小平村」として固定され、その枠組みが現在まで続くこととなったのである。このことは、小平にとって大きな画期であったといえる。これ以降、さまざまな村内対立を繰り返しながらも、学校の設置・運営などの生活を支える仕組みが、「小平村」という枠組みのなかで徐々に定着していくことになったからである。行政村とは別の枠組みで動いていた「改良進歩」の活動も、第二節3で触れるが、村ごとの品評会を基礎にした系統的品評会の実施などにより、村のまとまりが重要度を増していくようになった。
新たな村が動き出すためには、村長、助役、村会議員の選出が必要である。まずおこなわれたのが村会議員選挙で、選挙は納税額により一級と二級に分ける二級選挙制でおこなわれた。小平村では、四月一九日に投票がなされ、表2-1の一二人が選出された。そして、新たに誕生した村会議員による村長、助役選挙が実施された。当時の史料は残されていないが、小平の初代村長・助役は、ともに五月一六日付で就職しているので、それ以前におこなわれたことは確かである。
表2-1 小平村最初の村会議員 | |
一級 | 二級 |
清水元右衛門 | 斉藤忠輔 |
中村庄五郎 | 山川弥左衛門 |
清水忠次郎 | 福島藤右衛門 |
並木源左衛門 | 小川弥次郎 |
小野治兵衛 | 鈴木理平 |
粕谷平次郎 | 師岡弥一郎 |
(出典)「村吏員村会議員名簿」より作成。 |
初代村長となったのは斉藤忠輔であった。彼は第一章でみてきたように、小平における「改良進歩」のリーダーとしての役割を担った人物であった。彼のそのような活躍が、多くの村民に支持されたのであろう。残念ながら、彼は就任九か月後の一八九〇年二月二七日、病気により村長を辞職、同年七月一七日に死亡した。初代助役となったのは野中善平であった。彼は政治的活動と一線を画していた斉藤とは異なり、本節2でみるように助役就任以前から北多摩郡懇親会に参加、就任後には北多摩郡正義派に参加するなど政治的活動をおこなった人物である。小平は正義派の拠点の一つとなっていくが、野中は正義派のグループを代表して助役に就任し、斉藤とのバランスをとったのであろう。バランスという点で、もう一つ注意しておきたいのは、斉藤が小川地域(回田新田)の人物なのに対し、野中は野中地域(野中新田善左衛門組)の人物であることである。表2-2は大正初期までの村長、助役をまとめたものであるが、一時期を除いて、小川地域と野中地域で、村長・助役の椅子を分け合っていたことがわかる。地域間バランスをとることで、村のまとまりを保とうとしていたのである。
表2-2 小平村の村長・助役(明治期) | |||||
村長 | 助役 | ||||
就任・辞任 | 氏名 | 出身大字 | 氏名 | 出身大字 | 就任・辞任 |
1889.5.16 | 斉藤忠輔 | 回田新田 | 野中善平 | 野中新田善左衛門組 | 1889.5.16 |
1890.2.27 | |||||
1890.3.28 | 宮寺熊右衛門 | 小川 | |||
1892.3.26 | |||||
1892.3.31 | 高橋恭壽 | 野中新田与右衛門組 | |||
1893.1.6 | |||||
並木喬平 | 小川新田 | 1893.7.6 | |||
1896.3.30 | 1896.3.21 | ||||
1896.4.9 | 當麻朝正 | 大沼田新田 | 清水浩平 | 小川新田 | 1896.4.7 |
1896.10.8 | |||||
町田久五郎 | 小川新田 | 1896.11.21 | |||
1896.12.11 | |||||
1897.1.6 | 高橋恭壽 | 野中新田与右衛門組 | |||
1897.3.22 | |||||
不在 | |||||
1901.1.5 | |||||
1901.1.9 | 高橋恭壽 | 野中新田与右衛門組 | 小野房次郎 | 小川新田 | 1901.1.10 |
1902.3.25 | |||||
小川良助 | 小川 | 1902.9.16 | |||
1903.11.14 | |||||
1905.1.8 | 不在 | ||||
1905.1.9 | 高橋恭壽 | 野中新田与右衛門組 | |||
窪田小十郎 | 小川新田 | 1908.9.28 | |||
1909.1.8 | |||||
1909.1.9 | 高橋恭壽 | 野中新田与右衛門組 | |||
(出典)「村吏員村会議員名簿」より作成。 |