一九三六年の統計(表4-3)を参照しながら小平村の農産物を概観してみよう。生産価額をみると、農作物では甘藷(かんしょ)(さつまいも)が突出しており、それに小麦、西瓜(すいか)、大根、大麦が続く。小平の農業においてイモ類や麦など、主食となる作物の比重が大きいのは明らかだが、この時代には西瓜や大根など都市向けの蔬菜生産も徐々に増えていったのである。一方、その他の農産物をみると繭の価額が大きく、大恐慌による打撃を契機に衰退がはじまったとはいえ、この時点では依然として養蚕が小平の農家にとって重要な副業であったことがわかる。しかし日中戦争開戦後になると、生糸市場の悪化と食糧増産政策の影響もあって養蚕の衰退が大きく進行することになる。それに代わって伸びたのが、乳牛の飼育や養豚、養鶏といった畜産業である。これは東京をはじめとする都市部の生活洋風化に対応したもので、牛乳、食肉、鶏卵の出荷による収入は、養蚕の衰退による収入減を補填(ほてん)した。なかには副業ではなく畜産の専業的経営へと展開していく者もあらわれた。こうして戦後に本格的に展開することになる都市向け農業への移行と農業多角化への兆しは、戦前にもすでにあらわれはじめていたのである。
表4-3 小平村の主要農産物(1936年) | |||
品名 | 数量 | 評価(円) | 作付反別 |
米 | 1,126石 | 26,058 | 85.8 |
大麦 | 4,960石 | 37,200 | 275.6 |
小麦 | 4,476石 | 63,797 | 298.4 |
甘藷 | 1,359,750石 | 135,975 | 388.5 |
里芋 | 110,200貫 | 16,530 | 55.1 |
馬鈴薯 | 224,550貫 | 26,946 | 49.7 |
茄瓜類 | 103,450貫 | 22,057 | 27.4 |
西瓜 | 137,250貫 | 41,175 | 4.9 |
漬菜 | 63,000貫 | 7,560 | 12.6 |
大根 | 755,100貫 | 37,755 | 83.9 |
独活 | 3,000貫 | 4,980 | 8.3 |
豚 | 1,210頭 | 12,896 | - |
鶏 | 15,066羽 | 8,239 | - |
牛乳 | 933石 | 32,620 | - |
春蚕繭 | 19,824貫 | 64,417 | - |
夏秋蚕繭 | 23,505貫 | 95,386 | - |
製茶 | 2,925貫 | 11,528 | - |
(出典)小平村役場『小平村村勢要覧(昭和11年5月現在)』1936年より作成。 |
開発の時代になったとはいっても、昭和戦前・戦時期の小平の主要産業が農業であることに変わりはなかった。そして小平の農家は、時代に対応しながら自前の努力で農業の改良を推し進め、小平の農産物の声価を向上させようとする努力を続けていったのである。