広聴会に出席した町民からは、市制施行への反対意見はほとんどなかったが、都市計画に関する事業の進め方について、日常生活に関係の深い施設を整備して、住みよい環境をつくり出してもらいたいという要望が多く寄せられた。寄せられた要望は、市制施行によって改善してほしいという要望と、市制施行によって負担が増えたり、状況が悪化したりする不安がともなった意見とに分けることができる。
市制施行によって改善してほしいという要望は、以下二つにまとめられる。一つは、日常生活で不便を感じなくなるような都市計画を進めてほしいという要望である。これが広聴会で出された要望のうちで一番多かった。道路や排水路の整備、ガス普及のほか、バス路線の充実や集配郵便局の設置などが求められた。二つに、文化施設、社会福祉施設の充実による住民福祉の向上の要求である。公会堂や公民館、図書館のほか、児童公園、養老院などの施設の建設が求められた。
一方、市制施行によって負担が増えたり、施設が不足したりすることにともなう意見もいくつかみられた。なかには、「市になれば〔中略〕諸事業をより積極的におこなわなければならない。それにはたくさんの金が要るから税金が上がってくるかもしれない。しかしそれによって私たち住民の生活環境が良くなっていくならば、ある程度の犠牲は当然しのばなければならない。市になることによってそういった環境整備のための諸事業がいっそう促進されるならば、そのほうがどれだけよいかわからない」(近現代編史料集⑤ No.一八六)と積極的な理解を示すものもあったが、町民の税負担が増大する不安も述べられていた。町民税個人均等割は年二〇〇円から年四〇〇円になり、法人均等割は年六〇〇円増えて年一八〇〇円に上がる。また、市制施行でますます人口が増加して、小中学校の教室や施設が不足する事態に陥らないかという不安も述べられていた。その他、質問数は少なかったものの、都市計画を進める一方で農家に配慮した農業振興策を実施してほしいという要望も出されている。
小平町では町報と広聴会をつうじて町民の市制施行への理解をはかった。広聴会で町民から反対意見は出なかったが、広聴会での町民の要望や質問の内容をみると、日常生活の充実という観点から、市制施行によって改善してほしい要望をあげる一方で、市制施行によって生まれる不安も抱えながら、市制施行を受け入れていったのである。