さらに「新しく小平に移られ、ここを永住の地と定められた人々」に「小平の生い立ちと現状を知っていただく」ことを念頭に置いた『郷土こだいら』が、『小平町誌』が刊行されてから八年後の一九六七(昭和四二)年一一月に発行された。この本は、教育委員長石井輝一を委員長に、郷土研究会会長の小川愛次郎を副委員長に、学校関係者・郷土研究会会員・文化財専門委員などを糾合して、小平市教育委員会より刊行されたものである。
編集に直接たずさわったのは、市内の小中学校に勤務する教員で、さらにその何人かは小平郷土研究会の会員であった。大谷泰久や小貫隼男、近内信輝、原田修一らの教員は『会報』(第二号)の投稿者であり、とくに小貫と近内は『小平町誌』の編纂委員でもあった。そのうえ、彼らは新しい住民の子弟で膨張しつつあった学校に勤務し、郷土史・郷土研究と学校・教育の接点を求めていた教師でもあった。そのためか『郷土こだいら』は、『小平町誌』の目次立てを踏襲しながらも、小平に生活する人々の「いま・ここ」に重点を置き、「小平の生い立ちと現状を知っていただく」ことを念頭に、市制施行後の「若い市」編と「将来の小平」の「補遺を加え」た、簡便で親しみやすい本になっている。内容で特記すべきは、小川に残存する近隣組織である「差場(サシバ)」や組などにおける葬式などの共同作業や相互扶助を詳細に記した点である。しかし、そのことによって逆に時間をつなぐ経緯が薄らぐ結果になっていることが惜しまれる。
小平市教育委員会は、刊行後すぐの一九六八年一月からこの本をテキストに小平公民館で「郷土こだいらの歴史」を開催した。編集委員の小貫隼男や瀬沼永真(市職員)を講師に迎えた全一〇回の講義には、平日の午後にもかかわらず二一名の参加者があった(「講座郷土こだいらの歴史」)。