生活環境の改良

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まず団地内施設の改良や自治会事務所の提供を住宅公団に対して要望し、交渉していくことで問題を解決していった。また終バスの延長やラッシュ時の増発などのバス問題では、継続的にバス会社と交渉して、徐々にバスの利便性を向上させていった。しかしゴミ問題や駐車場問題は、行政や住宅公団に要望する以前に、住民同士で利害が対立する問題であり、住民の共同と自治の内実が問われる問題であった。
 この時期のゴミ問題とは、ダストシュートや焼却炉の存続の是非をめぐる問題であった。ダストシュートとは、団地の各棟の階段に設けられた投入口からゴミを入れ、一階の排出口からゴミを収集する仕組みで、六〇年代までの高層住宅に設置されていた設備である。上層階の者にとっては便利であるが、一階の住民は臭気や害虫に悩まされており、またダストシュートの使用方法が守られていないことから、小平市はゴミ回収に支障が生じているとしてその閉鎖を求めていた。焼却炉にかんしても、使用方法が正しく守られていないために、煤(すす)が発生して洗濯物を汚していると周囲の住民から苦情が出ていた。ダストシュートと焼却炉の使用を停止するという小平市の提案に対し、ダストシュート閉鎖反対を主張する「ゴミ問題対策有志の会」が署名活動をおこない、自治会と一緒に市との交渉に臨んだ結果、ダストシュート・焼却炉ともに従来通りの使用方法を維持するということでまとまった。自治会は「団地住民の声を集め、意思を統一し、団結すれば私たちの生活と利益は守られるのだ」と成果を誇ったが(『さざんか』第二三号)、これに対し一階のある住民からは、市に要望をするのもよいが、使用規則を守らない住民がいることに鑑みれば「環境浄化について一番責任あるべき、我々団地住民の自覚が何といっても不足している」ことが問題であり、「自治会がただ外部に対する圧力団体にすぎない運動だけでなく、もう少し文字通りの自治問題に活発であってもよいのではないか」と、住民自身の問題として捉え、モラルの向上を促す活動の必要性を提起した(『さざんか』第三一号)。しかし依然としてルールが守られなかったため(『さざんか』第五五号)、一九七一(昭和四六)年九月に焼却炉は閉鎖されることとなった。ダストシュートは病人や妊婦、高齢者だけが使用するとされたが、七四年ごろには全面閉鎖された(『さざんか』第一二七号)。
 駐車場問題も住民間で意見が割れる問題であった。小平団地には駐車場がなく、増え続ける自家用車は路上駐車され、ゴミ収集車や緊急車両の通行にも支障をきたす状況となった。芝生に乗り上げるなど駐車のマナーも悪く、子どもにとって見通しが悪くなり危険であるとか、住戸のそばの駐車がうるさいという声も高まっていた(図6-34)。幼児・児童が自動車にひかれ大けがをする事故も起こり、解決が急がれていた。住宅公団は一九七一年一月に「駐車場設置案(第一次案)」を提示し、団地内の芝生地を削るなどして、四〇〇台分の駐車スペースを確保するとした。もっとも当時約七〇〇台が路上にあふれていた。

図6-34 歩道をふさぐ違法駐車 1972年
小平団地自治会『さざんか』第108号、小平団地自治会所蔵

 駐車場問題について自治会はアンケートを実施したところ、自動車を保有するか否かで大きく意見が分かれた。表6-20によれば、保有者のうち現状を好ましくないと答えたのが三二%であるのに対し、非保有者は八六%がそう答えた。駐車場を設置すべきとするものは保有者が八六%、非保有者が九五%といずれも高かったが、設置場所については、保有者は団地内を希望し(七二%)、非保有者の四分の三が「なるべく団地外」ないしは「団地内に作るべきでない」と答えた。
表6-20 駐車場に関するアンケート結果
自動車所有
247271
問1 所有  
   イ)自己のもの22590%
   ロ)勤務先のもの2110%
   ハ)その他0
   NA(無回答)1  
問2 車種 
   イ)自己のもの35 
   ロ)勤務先のもの195 
   ハ)その他17 
   NA0   
問3 現在の団地内の駐車状況について 
   イ)好ましくない8032%23286%
     ①危険だ(53) (171)
     ②じゃまだ(15) (51)
     ③うるさい(5) (24)
     ④排気ガスの被害を受ける(4) (38)
     ⑤見苦しい(6) (5)
     ⑥道路を占領するのは良くない(54) (144)
     ⑦その他(1) (8)
   ロ)好ましくないが、実情やむを得ない15463%3011%
   ハ)特に問題ない85%23%
   NA57
問4 駐車場設置について 
   イ)設置すべきだ21286%25795%
   ロ)設置する必要ない(現状で良い)3012%75%
   NA52%7
問5 駐車場設置の場所 
   イ)団地内に作るべきだ7435%177%
   ロ)団地内に作っても良い8037%3614%
   ハ)なるべく団地外に作ってもらいたい4622%9135%
   ニ)団地内には絶対に作るべきでない84%10541%
   ホ)その他42%52%
   NA0 31%
問6 駐車料金 
     無料(500円以下)5 3
     1,000円42 9
     2,000円70 23
     3,000円59 36
     4,000円2 11
     5,000円2 27
     6,000円以上0 9
     NA32 139 
(出典)小平団地自治会『さざんか』第89号、1971年10月1日より作成。

 さきの公団の原案については批判的な意見が相次いだ。駐車場予定地近隣の住民からは要望書が提出され、原案は駐車場を団地北側一帯に集中させているが、この街区の居住者の居住環境を犠牲にするものであり、収容台数を最大にすることだけを考えて作られた原案は「人間尊重の立場から」再検討されるべきであるとした(『さざんか』第八一号)、その他「さざんか」紙上には賛否をめぐる長文の投書が寄せられた。自動車保有者と非保有者で意見が対立するので、第三者に原案作成を依頼すべきとする意見の一方で、自動車を必要とする人は各自の責任と努力で駐車場を確保すべきであるとする意見や、マイカーの社会的費用を内部化させることで、台数を抑制することなしには根本的解決にはならないことを訴える意見もあった(同前)。
 自治会は団地の自動車ユーザーグループ(オートクラブ)の参加を得て駐車場問題対策委員会を発足させ、(1)団地内には駐車場を作らない、(2)団地近隣の地主と交渉して駐車場経営を働きかける、(3)団地外に確保した台数分だけ、団地内に駐車禁止エリアを設ける、という方針で進め、七三年四月からは二二〇台分の駐車場を確保した。その後も近隣の駐車場を増やし、団地内の全面駐車禁止を目指していくことになった。これは「車優先の思想を拒否し、人間優先の思想に立ちもどることを表明したもの」とされた(『昭和五〇年度定期総会議案書』)。
 これに対し一部住民は「自主管理の会」を作り、さきの自治会の方針を非難する活動を展開した。多くの保有者は団地外の駐車場を利用したのに対し、相変わらず禁止エリアに駐車するものがあとを絶たなかったため、「良識に期待する一年以上の努力の結果に深い痛みを覚えながら」警察及び公団に対して団地内の駐車規制を申し入れた(『さざんか』第一三一号)。その後自治会は自動車保有者のモラル向上を訴える一方、警察などと連携しながら、路上駐車を取り締まる活動をおこなった。
 このように自治会は住民間の利害が対立する問題についても、時間をかけて調整し、自主的に解決する道を取ろうとした。しかし住民の価値観の違いやモラルの低下を前に「良識に期待する」だけでは解決は困難で、駐車場問題では、最終的には警察の規制による解決を選択した。住民の同質性が高いといわれる団地においても、共同と自治を実現していくことは、必ずしも容易ではなかったのである。