小平の歴史をたどりながら「故郷」を創出しようとする試みは、玉川上水を守る会と同時期に活動を開始した小平民話の会にもあらわれている。小平民話の会は、小平公民館(現・仲町公民館)主催の講座「民話と私たち」を母体に一九七六(昭和五一)年五月に発足した。民話運動の主導者である渋谷勲らに学びながら、小平に伝承されている伝説や世間話などの口碑を採訪し、小平の歴史を探究することになる。構成メンバーは十数名、「主婦ばかりで、子育てに追われながらのゆっくりした歩み」(「はじめに」)を開始した。根気よく聞き書きを続け、小平に伝わる伝説や世間話などを収集した。その営為は『小平むかしむかし』(一九八一年)や『小平ちょっと昔』(一九八八年)、『ちょっと昔―小平の生活あれこれ―』(一九九一年)などに結実した。
『小平むかしむかし』には、昔話はほとんどなく、初冬に吹き付ける「おかま風」や小川の霊験あらたな瘡守(かさもり)稲荷、幕末の侠客小川の幸蔵などが採録されている。さらに続編では玉川上水や青梅街道、関東大震災、多摩湖線などにまつわる世間話や事件、回顧談などが収録されており、小平の人びとの生活感覚やくらしの営み、信仰の様子などがみられる。採録された話は、聞き手が話を再構成した「再話」であるが、歴史をたどる補助資料として貴重なものが多い。また巻末には、話の内容を理解しやすくするための「小平の年中行事」が収録されている。
会員は、「小平の昔の話を聞くことによって『ふるさと小平』に出会え」たことに喜び、「これらの話を子どもたちに伝え」、子どもたちに「かけがえのない『ふるさと』」小平を受け渡すことを決意する(「あとがき」)。小平に長く住む人びとからの聞き書きという手法は、新しい住民によって小平の歴史を知る方法として受けつがれていたのである。