七月二十九日 雨天 金曜日

現代語訳へ


朝六時に臥戸を出で居間を掃除なしたる後、朝
飯を食し暫時休憩致し、それよりなつかしき
千代子の君に参り「ふくろの」形を貸りに参りに、それ
はこれなきとの御事にて家に帰り、自ら想像致し
て之れをたち、それより御昼の午飯を食し而して袋
二つを縫ひ午後五時にて二個を仕上たり、それより居間を
掃除して夕飯を食したる後、国語及び貴女の栞を
読みし百人首を読み少し休みて十時に寝に臥
せり、今日は私の大好物なる「木豆」母よりもらひ実に
面白く、且味美しに食べたり、先づ今日はこれで
             さよなら

『明治新刻小倉百人一首』 明治30年7月発行