朝五時四十分にて臥戸を出で居間を掃除し朝飯
を食し、それより髪を櫛けづり御隣の白畑りえ
子ちやんと二人にて実になつかしき妾が女学校に
参りたり、而して暫時にして学校内に入りたりしが、嬉
しき事には幸に我担任の先生の御出でなれば
少し打ちとけて御はなしをなさむとしたりしに、
我が友りえちやんは早く家に帰りたく思
ひしにや、いかにいそがわしきかは不知我
口惜しきなから先生に願ひ「ワフル」焼鍋をかりて
家に帰りぬ、それより砂糖を買ひて其外の
原料は母よりもらいて「ワフル」を焼きたり、然る
に初めの程は悪しく出来たれども後方には益々宜
しく出来たり、妾の喜びそれいかんぞや母、祖
母よりは賞められ姉共よりは喜ばれ、実に面白
しろく作りたり、それより昼飯を食し少しやすみ、
実に面白しきのみならず且我等に為めなる
御話を姉よりきたり、実に此なき楽しみなりき
それより姉と西山の畑に参り種々の果実を食
し大根を少し植え、豆の草を少しとりて、又本
の帰り道に向って家に帰りぬ、折りしも道々の
家屋は皆々黙々たる燈火を付けて、或は団
羽をとりて涼み或あおぐ、実に日は全て西の方
にぞかくれける、今日は実に楽しく且面白しく
此の或難き日を暮しけれ
(御手並かんぷく)
(其時は大分得意であったろうと思へる)
日用百科全書第13編『西洋料理法』明治29年7月14日発行よりワッフル作り方