八月卅一日 曇天 木曜日

現代語訳へ


実に月日は、はやひものでね楽しい楽しいと
待ちもうけてあった休みも、早や今日
かぎり、ああはかなき今日の日や、おもへば
いとどむねつぶれ、悲しさのあまり何と
も仕方くて
今日は朝から心地がよひので、やすみ
のみじかひのを遺憾に思ひました、今日
平常のとおりに居間を掃除しまして
少し家事に手伝へました、それから本を
すこしよみました、ふみのはやしをふみわけ、ふみわけ
ゆきましたが、足は少しの木根につまづきそこに倒
れましたが、今までのつかれにぞや、すやすやとねむ
りにけり、果して一時間ほど楽しき夢をたどりつつ
居りましたが、名残り惜しくも姉の一声にふと目を
さましました、何となく心はなほも半意識でした
ですから、ぼんやりとしておりました、だんだん
なほりまして、それからいそぎ家事に手
伝ひ、それから夕飯をたべまして、あす学校
にまいる用意しましてねに参りました時は
十一時、此暑中休暇も今日かぎり先づ一寸
さよなら   本科四年級
          佐藤としえ
 
此日誌を認めました時は青葉の陰をふきゆ
く夕風もいとど身にすみ草葉にすたく
きりぎりす、何ともいひがたき淋しさでした
とおくきこゆる、あんまのこえ一日一日
淋しさは身にすみました
今の時は丁度十一時すぎですた
 明治卅八年八月卅一日の夜これをすたたむ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(随分こまごまと詳しく書かれため拝見
すに時間をとりましたけれども少しも偽なく
飾りなく露骨に無邪気に書かれてあったね、頗る面
白く拝見しました
これだけ書いて下さればこの日誌を皆に
課した目的は十分に達せられたのだから
私は大満足です
殊によく家事に手伝ったのは流石は本
校で養成した功かある、これでこそ
よく学校の教訓を守る良生徒と言って
よろしい
以後も益御奮発を願ひたいものです
こんなに美しく面白く出来たのた
から永く後々まで保存して置きな
さい、後で見れば屹度面白いに
違ひない)