本当に月日は早いものでね、楽しい楽しいと
待ち望んでいた休みも、早くも今日
かぎり。ああはかない今日の日よ。思うと
いっそう胸がつぶれ、悲しさのあまり何と
もしがたくて。
今日は朝から心地いいので、休み
の短いのを遺憾に思いました。今日は
ふだんどおりに居間を掃除して、
少し家事を手伝いました。それから本を
少し読みました。文の林を踏み分け、踏み分け
行くと、足は少しの木の根につまずきそこに倒
れましたが、今までの疲れでしょうか、すやすやと眠
りました。果して一時間ほど楽しい夢をたどって
いましたが、名残り惜しくも姉の一声にふと目を
さましました。何となく頭はなおも半意識でした
から、ぼんやりとしていました。だんだん
直って、それから急いで家事を手
伝い、それから夕飯を食べて、あす学校
に行く用意をして、寝ました時は
十一時。この暑中休暇も今日かぎり。先ずちょっと
さよなら。　　　本科四年級
　　　　　　　　　　　　佐藤としえ
　
この日誌をしたためた時は、青葉の陰を吹きゆ
く夕風もいっそう身に沁み、草葉に集まって鳴く
きりぎりす、何とも言い難い淋しさでした。
遠く聞こえるあんまの声。一日一日
淋しさは身に沁みました。
今の時は丁度十一時すぎでした。
　　明治三十八年八月三十一日の夜これをしたためる。