仝丗一日 火曜日 曇天

現代語訳へ


今朝は五時三十分に臥戸を出でぬ、又々常と
同じやうに居間を掃除し、朝飯を食しぬ
それより少しヴァイオリンを引き去年の
日記を見たりしが先生批評面白く自ら
おかしかった、それから手紙をかきて姉
上共の遠き外国まで暑中見舞を出し
ぬ、又旧先生にも出しぬ、而し字が下手
で我なからに恥かしくあった、此後は
よく字を習はくちゃならん、と思った
 菊の花散るともわれは怠らず
 たどりて行ん文の林を
御昼の用意をなしてより少し本を読み
ぬ休になって以来今日はじめての本
の見そめなり
暫しありて後戸口にて只今の御かへりと呼
ぶものあり、いそぎ走り見れば妾が姉な
り、それより色々の土産を受け太に喜び
少し種々の話をなし、夕飯を食し十時
半にふしぬ
今日は七月の初めの日にして殊にいたましむ
日なり、されど我は何の勉強もなく
日々に遊び居りし中に、月はせまりぬ
妾も大に感じ古人の云ひし言さも
ありぬべしと、いよいよフン発の念起りぬ

山口半峯揮毫『小学新按習字帖 高等第三学年第一・二小期』