八月五日 日 天

現代語訳へ


朝四時にふし戸を出で居間を掃除し、そ
れより草花を写生したりしが、なかなかに
心のままに出来かね、遂に三色ばかりにして
やめにけり、それより御ひるの御飯を用意
すぬ、暫しありて、花園さんの御出で次で藤
井さんの御出で、皆女学校卒業生です
それより写真を見せたが、あまりに多くあ
るとあきれられた、それより市原うめをさん
に参り五分間程にて帰りぬそれより目医
師に参りて夕飯の用意をなし、それより
田ほに行きたり、それは母の使にて船の様
を姉と共に見に行きたるなり、先づ其さ
き実に舌筆に盡くし事能はず
四方山は薄ぎりにつつまれたる中に、異様
の雲ここかしこに散り居りて其中に鳥海の山
は早やゆかたもぬき捨で一面に春めきたる
青面をなし、その頂上の歴然として天
に聳えたる心も広壮の情湧き出で心地
何となくしかしかしうなりぬ、或は稲葉
の上を吹く風しらと我か顔をなでて行く
うれしさよ水なき処に小細の波のよる
等実に心地よし 九時にふす

佐藤とし江の酒田高等女学校卒業証書(明治39年3月25日)