仝廿四日 金 晴天

現代語訳へ


ああ思ひ起せば妾か父上は七とせ先
の今日の日に、はかなくも長きねむりに
つきたる日にある、月日のこまは、いと早く
妾が恩の万一も報えざるにと悲しみし
日も去りて今は七年との長き夢、ああ
はかなしや、それを思ひてもよき人に
なりて、亡父の霊を喜ばすめんと思ひしも
今は何たる事をなせしか一として、あとに
残すべきものとてもなし、思へば悲しま
たも再び帰らざる今日の日、むだに過さる
べきや後悔先に先たず、思へば悲しく
て涙のほろほろとこほるるも、いとど愚の
至りなり、と心にささやきつつ、ふす戸を出で
ぬ折りしも四時二十分鳥はかふかふ鳴ひて居る
雀はちうちうないて居る、常の如く動き
本を見ぬ、常の如く医師に参り、掃除し
て少しやすみ臥戸に入りぬ