阿星連山を背に緑したたる美しい郷、野洲川の清き流れと肥沃な地に広がる里、東海・東山道の交通の要衝として栄えてきた宿駅。わが石部町は、今や人口一万人を突破し、商工業もめざましい発展をとげ、まさにみどりとうるおいのある文化都市であります。
こうした発展の裡で「白まゆみ石辺(いそべ)の山の常磐なる命なれやも恋ひつつをらむ」と『万葉集』に詠われた古きよき時代の心が、今も町民に脈々と刻まれていると確信しております。
しかし、また、近年のめざましい都市化現象のなかで、文化遣産は、散逸の一途を辿っていることも事実であります。このような時潮の中で、連綿と続いてきたふるさと石部の姿を後世に伝承することは、わたしたちの大きな使命でもあります。
本町は、明治二十二年四月一日石部・東寺・西寺の三ケ村が合併し一〇〇年を、また、明治三十六年六月一日には石部町制が施行されて以来八十五周年の記念すべき年を迎えることができました。これを機会に、記念事業として町史の編纂事業に着手してまいりました。幸い、郷土史家や新進研究者の熱心な研鑚と、数多くの住民の方々から資料の提供を得て、このたびようやく『新修石部町史』(通史篇)を発刊する運びとなりました。
通史篇は、ふるさと文化の香り高く、学問的水準を保ちながら、かつ現代人の誰にも親しまれるやさしい記述で編纂されております。
本書が、先人の偉大なる歩みを学び、石部町の将来をより豊かに創造するための史料として町民をはじめ、多くの歴史を学ぶ方々のお役に立てば幸甚に存じます。
本書の発刊にあたり、格別のご尽力を賜わりました関係各位と町民の皆様に対し、深甚なる感謝の意を表し、発刊のごあいさつと致します。
平成元年三月 石部町長 服部絢夫