信楽・田上山地

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野洲川中流域に位置する石部町の周囲には、信楽(しがらき)・田上(たなかみ)山地と北麓に続く丘陵が連なっている。末端の三上(みかみ)山(野洲郡野洲町)をはじめ、太神(たなかみ)山(大津市)・飯道(はんどう)山(甲西町・水口町・信楽町)・竜王山(栗太郡栗東町)・阿星山(石部町)といった標高六〇〇メートル前後の山々が峰をなしている。
 三上山は、水口丘陵の末端にあり、近江盆地のなかでは目立つ山体をもち、「近江富士」とも呼ばれている。太神山・竜王山と、阿星山・飯道山は変化に富む花崗岩(かこうがん)山地特有の景観を呈している。ここにとりあげた山々は、それぞれ信仰の山として今日に伝えられている。
 古くから人々は日常生活の中で自然の恵みを受けており、自然は感謝を表わす対象であった。しかし、一転して災害をもたらすのも自然であり、恐れの対象でもあった。このようななかで、自然に対して神を意識し、信仰をもったと考えられる。神のやどった木々は神籬(ひもろぎ)、神のやどった岩盤は磐座(いわくら)、巨石で囲まれたところは磐境(いわさか)となり、これらの事物は神が憑(よ)りつくところ、すなわち神座(かみくら)として祭祀が行われるようになる。
 また、神座のある杜(もり)や山は神体山(しんたいざん)すなわち、神奈備(かんなび)として神に対する信仰の場となっていく。大和国一の宮の大神(おおみわ)神社(奈良県桜井市)は本殿を持たず、三輪山の磐座が信仰の対象となっており、古い形の祭祀を残す代表的な事例としてとりあげられる。
 さて、先に示した石部町とその周辺にある山々の場合、三上山には西麓に野洲郡の式内(しきない)大社である御上神社が鎮座している。太神山には智証(ちしょう)大師円珍(えんちん)により建立されたと伝えられる太神山成就院不動寺(だいじんざんじょうじゅいんふどうじ)がある。竜王山には山頂に巨石が並び、八大竜王が祀られ、雨乞いの山として知られていた。麓の大野神社や金勝(こんしょう)寺にこもったり、松明(たいまつ)を手に登頂し、火を焚いて雨を祈ったところと伝えられる。飯道山には山頂に甲賀郡の式内飯道(はんどう)神社が鎮座し、一の峰には紫香楽宮(しがらきのみや)鎮護のため建立されたと伝わる飯道寺跡がある。

図24 信楽・田上山地の位置