絵画

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絵画のジャンルでは長寿寺の二件の作品が注目される。まず県指定文化財の観経変相図だが、当寺には鎌倉時代の観経変相図のあることは先に述べた。法量のわずかな相異がみられるが、図像的には同一のやはり当麻曼荼羅形式である。前述した一幅が暖色系の色彩を中心にしたやわらかな賦彩法をみせていたのに対し、やや大きめのこちらの一幅は金泥(きんでい)や切金(きりかね)を多用して、明快ではあるがかたい印象を与えることは否めない。個々の描線には明らかに形式化の痕がうかがえ、制作期が南北朝期に下ることを意味していよう。
 同じく長寿寺の十二天像(じゅうにてんぞう)も注目すべき作品である。十二天像は密教寺院における修法(しゅほう)や灌頂(かんじょう)に際して道場内にめぐらし、秘密壇(ひみつだん)を守護するための画像で、台密(たいみつ)・東密(とうみつ)の別なく使用された。奈良・西大寺本や京都国立博物館本(旧東寺蔵)などの古本では坐像形式に表されるが、鎌倉時代以降は立像形式に変わってゆく。本図は図像的に聖衆来迎寺本に近いものの、それに比べると写しくずれと評さざるをえない描線のかたさがあるほか、来迎寺本にみられる平安末期の風を残す豊醇な賦彩法は失われてしまっている。しかしながら十二天像の台密における図像的展開の把握のためにも、本図のもつ価値は大きいといえる。

写52 長寿寺十二天(梵天)像