近江出身の物産学者木内石亭（きうちせきてい）は、著書『雲根志（うんこんし）』（前編、安永二年刊）において、「近江国石部駅西北に金山（かなやま）という山あり、往昔此山にて金を掘りたりと、よって後、村の名とし、また山の名とす、此山に金を掘りたるという岩窟あり」と記し、石亭自身は石部出身の門人服部未石亭（みせきてい）をともなって宝暦（ほうれき）十年（一七六〇）五月、この金山岩窟を踏査している。
　この岩窟は石部山吹屋ヶ谷にあり、『滋賀県管下近江国六郡物産図説』によれば、延宝（えんぽう）三年（一六七五）初めて開発したが、藩命により廃鉱とされた。次いで正徳（しょうとく）五年（一七一五）再び吹屋ヶ谷で採掘をすすめたが、わずか二年後の享保二年（一七一七）に廃鉱となり、さらに安永六年（一七七七）三たび採鉱が始められた、としている。特に前二回の採掘時期は確定しえない。安永七年（一七七八）京都町奉行山村信濃守が石部宿に宿泊した際、銅山について尋ね、それに石部宿年寄が答えた書上げの写（うつし）が残されている（『膳所領郡方日記』）。それによれば、「百ヶ年己前、又八拾ヶ年己前掘候儀ニ御座候得共、相止メと申候、勘定引合候ハ、前々ゟ続而掘可申候得共、銅出方無数御座候」とある。すなわち百年以前延宝期と八十年以前元禄期に採掘したが、いずれも採掘量が少なく勘定が引き合わず中絶したという。さきの記述によれば、安永六年に三たび採掘を試みたらしく、翌年の京都町奉行所宛の書上げには、当時四〇貫目余の銅を産出し、金掘職人一〇人余が他から招き寄せられていた。『石部町史』では津から採鉱夫が多数招き寄せられ、奉行大野平兵衛・足軽鈴木利兵衛らがこれを督励し、のちに山元次兵衛も来山したと記している。
　その後、慶応（けいおう）二年（一八六六）、滋賀郡別保村字深谷山の内、胎内掘の普請の職人定次郎が、かつて石部山あたりで銅の採掘のあったことを伝え聞き、石部山に鉱石を捜し求めて、甘坪山で鉱石を見つけた。このことを山林掛に報告したことから翌三年（一八六七）から開鉱となった。

　


写132　製鉄・製錬所跡　五軒茶屋の資源再利用工場よりやや北方の山中にあり、鉱石を溶錬する際に生ずる非金属性のかす（鉱滓・写真右）が地面に散在し、付近は草木一本生育していない。ここより南東に位置する雨山・石部山には、金山遺跡があり、現在でも坑口がみられ、製錬所跡との関連も考えられる。いずれの遺跡も、石部町の産業遺跡として貴重なものである。