太平洋戦争突入時、国内経済では軍事関連分野が最優先されたために、国民生活は、厳しく規制された。石部町でも全町民に対して「石部町生活改善申合規約」が同十五年九月に示された。その規約は本文六条、付則一条から成り、各町(小字)単位で出されていた「節約勤倹規約」に比べると、きめ細かな内容になっている。
まず、第一~二条では規約の目的・精神が示されており、戦時体制下における生活の節約を厳しく求めている。第三条では規約内容を実行するために、各区の区長・組頭(組長)などの役員が実行委員に、また、町職員が実行督励委員となったのである。今までの規約は町民に対して取り決めを提示しただけであったが、本規約は取り決めを実際に遂行するための体制作りがなされている。この種の規約を周知することさえ容易ではないのに、取り決めの推進体制を確立していたことや、当時の情勢を考慮すると、本規約は従来のものよりも徹底された可能性が高かったと推測できる。
生活改善規約の実行項目は従来の規約に比較して多岐にわたっている。三一の実行項目は婚礼・出産、葬儀・仏事、軍人入退営、社交、個人改善と五つの大項目に整備されている。規約内容をみると、従来の規約では制限事項が多くみられたが、本規約は廃止・禁止事項がほとんどである。婚礼・出産に関する項目では、結婚式そのものの質素化を求め、さらに衣装見せや、三日帰りの土産物や箸帯祝の配物、出産見舞を廃止し、さらに出産祝の制限を行っている。葬儀・仏事に関する項目においては、葬儀の厳粛さ、簡素化を求め、葬儀の香奠返し、盛籠や花輪を禁止した。また、夜伽の際や葬式当日の親戚町内の者に対する饗応や、葬式後の儀礼・忌明・逮夜・年忌・喪仕上げなどにおいても招待者の範囲を定め、供養物や饗応を廃止した。軍人入退営に関する事項をみると、入退営の祝宴は当事者の家では廃止し、町内の歓送迎宴は一肴一酒に制限した。それに、入退営祝の贈答も禁止された。社交に関する事項については、初老・還暦の贈答と祝宴、中元・歳暮・暑中見舞・見舞返しの贈答、旅行の土産物、祭礼の招待を廃止した。個人改善に関する事項では、家族全員が神仏を礼拝すること、節酒節米などの消費倹約を進めること、享楽を目的とした旅行の制限などを定めている。さまざまな年中行事や人生の節目に行われる儀礼にみられる贈答や酒宴などもすべて禁止されたのである。
第五条で、この生活改善で節約された費用の使途までも規定している。この費用の一部を公共団体に寄付することを明記している。これらの規約からも、戦争の影響が深く及んでいることが理解できる。