東野辺薫は、安達郡二本松町(現・二本松市)に生まれた。安積中学校、早稲田大学を卒業後教員となり、各地の教員生活の中で小説の執筆を続けた。1930(昭和5)年に戯曲『黎明(れいめい)を待つ人々』を出版して作家活動に入ったが、文学的に世に知られるようになったのは、1941(昭和16)年に毎日新聞懸賞小説に当選した作品『国土』が「サンデー毎日」に連載されてからである。さらに、父野辺保蔵の上川崎小学校長時代に上川崎村(現・二本松市)で過ごし、和紙作りに接した体験に基づいて描いた『和紙』が1943(昭和18)年に芥川賞を受賞した。『和紙』も『国土』も戦争を背景にした作品で、どちらも出征する農民の姿が描かれている。出征前夜に遅くまで紙を漉(す)く主人公や、生きて再び帰郷できぬ覚悟を自分の畠の土を袋につめて戦場へ向う主人公を通して、静かな中に作者の平和への希求が描き出されている。