低線量の放射線被ばくがどの程度の健康被害をもたらすかについては専門家の間でも見方が多様である。被ばくはできるだけ避けたほうが良いという点で概ね異論はないにしても、他方で避難することによる被害も小さくはない。家族が別れ別れになってしまうことや、住宅費などの経済的な負担、そして現に、福島県内では避難に伴う「震災関連死」が数多く生じている。放射線のリスクと避難のリスク、どちらが大きいかの判断を市民の多くは迫られた。
放射線の影響を心配しながら避難の選択をしなかった市民に最も関心があったのは、学校など子どもの生活空間の安全確保だった。郡山市教育委員会は、市内の各中学校に4月中の屋外での部活動を自粛するよう通達し、小中学校の体育の授業もできるかぎり屋内で行うよう指導した。
市はさらに、小中学校および公立保育所で校庭の表土を除去する方針を独自に固め、実施に移した。これは県内では初めての決断だった。ところが、除去した表土をどこへ持っていくかに関して問題が持ち上がった。一日も早い除染が望まれる一方で汚染土壌の処分場所の確保が難しいという、その後もずっと続く問題点がいち早くあらわになったといえる。
全国高校野球選手権福島大会の会場となった開成山球場でも、開期中は毎朝放射線量を測定して結果を周知するなど、異例の放射線対策が講じられ、入場行進の形状を変更して時間を短縮する工夫もなされた。屋内の遊び場も作られた。市は「郡山市元気な遊びの広場(愛称PEP kids Koriyama)」をオープンさせ、連日の賑わいを見せた。
このように郡山市は、学校の表土除去をはじめ、県内で最も先行して放射能除染に取り組んだ自治体だったと言うことができるだろう。