(2) 地方創生

 地方創生政策は、2014(平成26)年6月の経済財政諮問会議の「骨太の方針」に「50年後も人口1億人を保持する日本」という目標がたてられたことが出発点で、人口減少対策が目的だった。そして、2013(平成25)年から開始されたアベノミクスでは、景気回復が地方の中小企業に波及しない、かつ人口減少と高齢化で地方の活性化は今後益々困難になるという懸念から、その打開策「ローカルアベノミクス」として経済成長戦略のなかに地方創生を位置づけた。さらに、同時進行していた総務省の広域圏行政や国土交通省の国土のグランドデザインの内容が包含された。安倍内閣は、2014(平成26)年秋に「まち・ひと・しごと創生法」を制定し、2015(平成27)年度中に全国の自治体が人口ビジョンと地方版総合戦略を策定することを義務付けた。

 政策の内容は、1)しごと、新産業育成と雇用創出による地方の活力の保持(IT、農業の六次産業化・輸出産業化、観光)、2)ひと、人の流れと人材育成、子育て支援による少子化対策と、移住定住による人口獲得、労働生産性の向上、3)まち、コンパクト=都市機能や地域拠点の集約と、ネットワーク=連携中枢都市圏や定住自立圏による広域連携で、地域課題の解決という三本柱だった。

 政策の手法は、民主党政権までつづいた地方分権や「国と地方の協議」から、上記の国策を推進するための自治体の動員に転換した。その特徴は、1)各省庁の縦割り行政と補助事業を排除するための内閣府のワンストップ機能の発揮、2)人口減少という自治体の消滅危機感をテコにした経済政策への従属、3)重要数値目標KPIと政策評価サイクルPDCAの義務付けによる中央集権的行政管理だった(前掲久保木(2020))。

 他方で、政府の自治体への財政支援は、小規模なままだった。地方創生交付金は、小泉内閣以来の地域再生交付金を切り替えたもので、各年度の事業予算は総額2,000億円(その50%は国、50%は自治体負担)にとどまり(中西渉(2015)「地方創生をめぐる経緯と取組の概要」『立法と調査』371号)、地方自治体側は、当初は久しぶりに政府が地方を重視してくれそうだと期待したが、その期待は1年目でしぼんでしまった。その後、交付金は名称を一部変更しながら継続したが、国の支出1,000億円という規模は変わらなかった。安倍首相が地方創生を政権の看板政策にしたのも1年間だけだった。退任後に出版された前掲の回顧録には、一言の言及もない。

 上記のように、地方創生は本来の目的が国家レベルの経済成長戦略で、地方創生はその副次的政策だったから、2015(平成27)年には成長戦略の重点が人口減少時代に労働力を確保するための「一億総活躍」「働き方改革」に移行すると、地方創生交付金は「働き方改革」や人材育成に関する事業に配分された。そして、2018(平成30)年から総務省が「自治体戦略2040構想」を研究し始めると、2020(令和2)年からの第二期地方創生の重点は、それを具体化するスマートシティやSDGs未来都市づくりとなり、地方自治体のデジタル化となった。ところが、同年にコロナ禍が拡大してまず三大都市圏から感染爆発が発生すると、政府の緊急経済対策の一環として感染症対策地方創生交付金が全国の自治体に支給された。その財源は第1~3次補正予算であり単年度に数兆円が措置された。

 地方創生5年間の中間結果は、出生率がさらに低下して少子化と人口減少が加速し、人口の首都圏への集中はコロナ禍の一時期を除いて継続した。東京から新たに省庁移転が決定したのは文化庁の一部だけだった。 ITやAIやデジタル化は、まずは大都市圏での産業立地と人材育成が先行し、地方の住民が豊かさや希望を実感しにくい地域政策だった。政府が地域産業や少子化対策に抜本的な施策を講じないまま、また地方自治体に有効かつ実現可能な政策内容を示さないまま、地域振興を自治体間の人口・産業獲得競争やデジタル化競争に委ねることに、そもそも無理があった。