(3) 台風第19号の災害対策

 国は、10月12日、「多数の者が生命または身体に危害を受け、または受けるおそれが生じており、継続的に救助を必要としている」として、14都県390市町村に対し「災害救助法」(昭和22年法律第118号)を適用することとし、郡山市もその対象となり、救助の実施主体は郡山市から福島県に移行した。14日には、武田良太内閣府特命担当大臣(防災)を団長とする政府調査団を福島県に派遣し、17日には、安倍晋三内閣総理大臣、防災担当大臣らが福島県と宮城県の被災現場を視察し、郡山市では、品川萬里市長が被災状況を説明した。10月18日、国は台風第19号による災害について、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(平成8年法律第85号)に基づき、「特定非常災害」と指定し、被害者の権利利益の保全のため許認可等の有効期間の延長などの措置がとられた。また、10月29日、福島県は「被災者生活再建支援法」(平成10年法律第66号)の適用を決定し、住宅が全壊あるいは半壊するなど生活基盤に著しい被害を受けた者に対して、全都道府県が相互扶助の観点により拠出し、国庫から2分の1の補助を受けた基金から被災者生活再建支援金が支給されることとなった。さらに、10月29日、国は「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」(昭和37年法律第150号)に基づき、「激甚災害」に指定し、災害復旧事業の国庫補助率のかさ上げなどの特例措置が適用されることとなった。また、「大規模災害からの復興に関する法律」(平成25年法律第55号)に基づき、「非常災害」に指定され、県や市町村が管理する道路や河川などの復旧工事を国が代行することが可能となった。

 郡山市では、相談窓口や通話料無料のコールセンターの開設、各種支援制度の周知など、被災者を支援する体制を整え、り災証明書の発行を行った。被災者に対しては、災害見舞金や義援金の支給、市県民税・固定資産税等の減免、後期高齢者医療保険料の減免、市認可保育所の利用者負担額の減免等の支援を行った。被災した中小企業に対しては、災害対策資金融資信用保証料金補助制度や利子補給補助制度などの活用、郡山西部第一工業団地・第二工業団地への増設・移転に係る補助制度の拡充を行った。しかしながら、2019(令和元)年12月、日立製作所は、台風第19号により甚大な被害を受けた郡山中央工業団地の郡山事業所の操業継続を断念し、県外に移転すると発表した。復旧作業の遅れが露呈する形となり、郡山市経済への影響を懸念する声も聞かれた。

 阿武隈川流域において甚大な被害が発生したことから、国、県、沿岸市町村により「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」が策定され、ハードとソフトの両面からの治水対策をおおむね10年で実施することとなった。ハード面としては、堤防整備、河道掘削、阿武隈川上流の鏡石町・矢吹町・玉川村における大規模遊水地の整備等の治水対策が、ソフト面としては、沿岸市町村における減災型都市計画の展開、地区・町内会単位での防災対策の構築、本川合流部周辺における支川の減災対策、市町村の実情に応じた減災の取り組みが行われることとなった。

 郡山市は、1.市管理の準用河川の整備、2.下水道事業による雨水貯留施設の整備、3.浸水リスクを考慮した立地適正化計画の展開、4.洪水ハザードマップの改訂、5.町内会・地区単位でのマイ・タイムライン(住民一人ひとりの防災行動計画)の策定・普及、6.河川へのWebカメラ・遠隔監視型の水位計の設置を行うこととなった。なお、郡山市は、2014(平成26)年、局地的大雨(ゲリラ豪雨)による浸水被害を軽減するため国土交通省が創設した「100mm/h 安心プラン」に東北地方では初めて登録し、「郡山市ゲリラ豪雨対策9年プラン(100mm/h 安心プラン)」を策定していた。これは、ゲリラ豪雨により雨量が一時的に下水道の排水能力を超えることで発生する内水氾濫に対し効果を発揮するもので、2022(令和4)年度の完成時には、5ヵ所の雨水貯留施設の整備が完了することとなっていた。ただし、同プランによる整備施設は、川から溢れた水を貯めるためのものではなく、河川の氾濫等に対しては、前述の阿武隈川プロジェクトに委ねられることとなった。さらに、2020(令和2)年、郡山市は、国土交通省による「防災コンパクト先行モデル都市」に選定され、国が防災関係部局により横断的に設置した防災タスクフォースの直接的なコンサルティングにより、防災指針の検討や居住誘導区域の見直し等について技術的な支援を受けながら、「郡山市立地適正化計画」の見直しを進め、安全なまちづくりを推進することとなった。これは、2020(令和2)年、「都市再生特別措置法」(平成14年法律第22号)が改正され、頻発・激甚化する自然災害に対応するため、立地適正化計画に防災対策・安全確保策を記載する「防災指針」の作成が盛り込まれたことに伴う国の新たな施策に応えるものであった。

 郡山市の災害対策については、福島県職員1,294人をはじめとして、県内外の市町村から延べ3,876人の応援を得た。郡山市は、台風に対する市の対応について課題等を把握・検証し、その結果を今後の防災対策に反映させ、災害に強いまちづくりに活かすことを目的に、関係団体・町内会との複数回にわたる意見交換会を開催し、被災者アンケート調査を実施し、庁内の災害対応検証ワーキンググループによる検証を経て、2020(令和2)年12月、「令和元年東日本台風における災害対応検証」をまとめた。災害対策本部が設置される正庁の電話回線の強化や分かりやすい情報発信のあり方等の検討を行うこととされた。

 なお、台風第19号をめぐる避難情報については、警戒レベル4に「避難勧告」と「避難指示(緊急)」とがあり、意味の違いが正しく住民に理解されておらず、適切な避難行動に繋がらなかった。国は、2021(令和3)年5月、「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)を改正し、「避難勧告等に関するガイドライン」を名称を含め改定し、「避難情報に関するガイドライン」(内閣府(防災担当)「避難情報に関するガイドライン」(令和3年5月改定、令和4年9月更新)<https://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/pdf/hinan_guideline.pdf>2024年10月31日参照)を定め、避難勧告は廃止され、避難指示に一本化された。