(1) 復旧・復興需要、アベノミクスそして新型コロナ禍

 2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災はわが国に大きな人的・物的被害をもたらした。被害額は、社会インフラや資本ストックだけで19.6兆円(2011年6月内閣府(防災担当)推計)となり、1995(平成7)年の阪神大震災の被害額9.6兆円(1995年2月国土庁推計)を大幅に上回った。特に経済面では地震、津波による資本ストックの損壊のみならず、サプライチェーンの分断、原子力発電所稼働停止による電力供給の制約など、わが国経済が抱える課題が浮き彫りになった。その一方で、経済のフローの面では、復旧・復興需要が経済を潤し、それにその後のいわゆるアベノミクスによる緩和的な経済政策の効果もあって、2020(令和2)年に新型コロナウイルス感染症が拡大して経済活動の停滞・収縮が本格化するまでは、わが国経済は、山谷を伴いながらも比較的順調に拡大傾向を続けた。

表1 名目総生産額の対前年度増減率の推移
(全国は国内総生産額<GDP>、福島県及び郡山市は県内・市町村内総生産額。単位 %)
2011
(平成23)年度
2012
(平成24)年度
2013
(平成25)年度
2014
(平成26)年度
2015
(平成27)年度
2016
(平成28)年度
2017
(平成29)年度
2018
(平成30)年度
2019
(令和元)年度
2020
(令和2)年度
2021
(令和3)年度
2021
(令和3)年度

総生産額(兆円)

全国 -1.0 -0.1 2.7 2.1 3.3 0.8 2.0 0.2 0.0 -3.2 2.9 554.6
福島県 -8.3 5.0 5.9 3.7 2.3 1.7 0.9 -0.6 -1.7 -0.5 0.1 7.9
郡山市 -1.8 4.4 4.4 -1.0 -7.8 4.4 1.8 -1.6 -2.6 0.7 2.0 1.4
(国民経済計算[GDP統計]<内閣府 経済社会総合研究所>、福島県県民経済計算<福島県企画調整部>)

 まず、本続編が記述対象としている2012(平成24)年から2021(令和3)年までの10年間の日本経済の歩みを見ていこう。

 この期間を特徴づけるキーワードは三つ、復旧・復興需要、アベノミクス、そして新型コロナウイルス感染症禍(以下この節では「新型コロナ禍」という)である。この10年間の名目GDP成長率の推移を見ると、復旧・復興需要とアベノミクスによって比較的順調に経済が拡大した前半(2017(平成29)年頃まで)と、それらの効果がやや息切れし、経済に停滞感が出てきた(2018(平成30)年頃から)ところに、新型コロナウイルス感染症が全世界的に急拡大し(2020(令和2)年初頃から)、経済が大きな打撃を受けた後半に分けることができる。