こうした中で、2019(令和元)年12月、中国湖北省武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」として初めて確認された新型コロナウイルス感染症(COVID19)は、瞬く間に全世界に感染が拡大し、2020(令和2)年3月11日には、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「新型コロナウイルスはパンデミックと言える」と発言する事態となった。これを受けて世界の多くの国が出入国制限、都市封鎖、国内における行動制限など厳しい感染拡大防止策を実施し、この結果、経済活動は全世界的に急激かつ大幅に抑制されることになった。
わが国においても、2020(令和2)年1月30日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が設置され、本格的に感染防止策が講じられた。2月下旬には全国規模でイベント自粛や臨時休校の要請が行われ、さらに4月7日には首都圏など7都府県に特別措置法に基づく緊急事態宣言が発出され、16日にはその対象地域が全都道府県に拡大されたことで、外出自粛や接触機会の削減が一段と進み、経済活動は一気に縮小した。そして、こうした人々の日常生活や経済活動が強く制約を受ける状況については、当初は早期解消が期待されたが、実際には緊急事態宣言が4回、まん延防止等重点措置が2回発動されるなど、強弱を伴いつつ足掛け3年間に亘って続き、経済に深い傷跡を残した。
わが国の産業界が被った影響について概観すると、まずインバウンド(海外からの訪日)需要が激減し、一時はほぼ消失した。続いて、集団感染防止のための三密(さんみつ。密閉、密集、密接)回避が求められ、通勤・通学を含む人と人とが接触する広範な経済・社会活動が大幅に制限・自粛された。このため、ビジネス、観光を問わず旅行関連業界(宿泊、運輸等)が大打撃を受けたほか、飲食、娯楽、小売、イベントなど、人が集まったり、接触したりすることを前提とする個人消費関連の幅広い業種・業界に深刻な影響が及んだ。さらに、それ以外の業種でも、緊急事態宣言等を受けた出勤制限・自粛によって、営業活動だけでなく日常の業務処理にも大きな影響が生じた。2020(令和2)年夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックも開催が1年延期され、2021(令和3)年夏に開催されたが、原則無観客開催を余儀なくされた結果、期待していた経済効果も大きく減じることとなった。
さらに世界規模、特に中国の生産活動停滞によるサプライチェーン(供給網)の混乱によって、製造業では生産停止や部品調達が困難となる事態に直面したほか、主要貿易相手国における経済活動の停滞・縮小に伴って輸出も大幅に減少した。
このように企業活動が低迷し、経済状況が悪化すると、雇用削減や一時解雇を行う企業が増加し、非正規雇用者や中小企業勤務者を中心に雇用も大きな影響を受けた。これに対し政府では、現金給付、所得補償などを含む大規模な経済対策を行ったが、2020(令和2)年度のGDPは、名目、実質ともマイナス成長となった。2021(令和3)年度からワクチン接種が開始されたが、ワクチン接種に合わせて比較的速やかに行動制限を緩和し、経済活動を正常化させた欧米を始めとする諸外国に比べ、わが国は社会全体が行動制限緩和に慎重であったことなどから、回復テンポは緩慢なものとなった。
なお、感染の拡大及び拡大防止措置の実施によって、新型コロナ禍以前のような経済・社会活動が困難になった一方で、それを補完・代替する形で、自宅やサテライトオフィスなどで勤務するテレワークや、オンライン会議システムを利用した会議や営業活動、研修やイベントなど様々なコンテンツのオンライン配信、オンラインショッピング、各種業務のデジタル化(DX化)など、デジタル技術を活用した「新しい日常」スタイルが登場して、短期間の間に急速な進化と拡大を遂げ、有力なビジネスとして成長していった。また、生産拠点の中国集中がサプライチェーンの混乱を招いたことへの反省から、生産の国内回帰を含むサプライチェーンの見直しも進んだ。