(1) 郡山市農業の概要

 郡山市の農業の概要を始めに示す。郡山市では農業に関連する基本方針をまとめたものに「食と農の基本計画」と「6次産業化推進計画」があり、相互に連動し、市の農政の既往の課題への対策の到達点や、現在残されている課題、そして今後の方向性を定めている。

 2024(令和6)年時点では、前者は「第四次・郡山市食と農の基本計画」、期間は2022(令和4)年度から2025(令和7)年度までの4ヵ年、後者は「第2期・郡山市6次産業化推進計画」、期間は同じく2022(令和4)年度から2025(令和7)年度までの4ヵ年である。食と農の基本計画は、第一次(2004(平成16)~2014(平成26)年度)、第二次(2015(平成27)~2017(平成29)年度)、第三次(2018(平成30)~2021(令和3)年度)を経て今次に至る。6次産業化推進計画は、最初の計画が2017(平成29)年度から2021(令和3)年度であり、その次が今期のものとなる。

 今次の「第四次・食と農の基本計画」と、今期の「第2期・6次産業化推進計画」は、いずれも、2000(令和2)年の国の農林業センサスの統計や2020(令和2)・2021(令和3)年の郡山市の農業や農産物流通のデータを根拠に論述を進めている。本『郡山市史 続編5』では対象とする期間を2012(平成24)年度から2021(令和3)年度までの10ヵ年としているので、上記の両計画の出発点で確認している情勢認識が、本稿で捉える最終的な市農業の現状となる。

 始めに農家数であるが、郡山市の農家数は「6次産業化推進計画」では1990(平成2)年の11,126戸から、2000(平成12)年9,095戸、2010(平成22)年7,676戸と減少してきて、2020(令和2)年に5,102戸と、この期間で半減していることを確認している。

 図1は、「食と農の基本計画」にある2000(平成12)年から2020(令和2)年までの自給的農家を除く「販売農家」の数とその内訳(主業的農家・準主業的農家・副業的農家)の推移を示すグラフである。やはりこの20年間で大きく戸数を減らしていることが分かる。

 ただし、2020年(令和2)年に関しては、3,611戸という数字は販売農家でなく「個人経営体」の数(同じくそれを構成するのは主業的経営体・準主業的経営体・副業的経営体)であり厳密な意味で「販売農家」に限ると3,566戸となる。(自給的農家数1,536戸を加えて上記の総農家数5,102戸を構成する。)

 また、個人経営体の3,611経営体に、団体経営体(法人など)52経営体を加えて、3,663経営体が郡山市における2020(令和2)年時点の農業の担い手の数となる。法人は、42経営体であり、2015(平成27)年の22経営体から大きく数を増やしている。

 このように幅広い態様をもつ今日の農業の担い手像を数字の面でどう捉えるかは、この20年間で様々に模索されてきており、本稿ではこれ以降は、3,663ある農業経営体を基準としていく。

 図2に、「6次産業化推進計画」より、地目別の農地面積(経営耕地面積)の2000(平成12)年から2020(令和2)年までの5年ごとの推移を示す。水田の面積も減っているが、畑と果園地(果樹園)の面積が大きく減少している(畑は2000(平成12)年で1,746haから2020(令和2)年で950ha、果園地(果樹園)は192haから80ha)。これは、水田の場合には大規模な担い手(法人を含む)がこの期間に現れて、面積を拡大してきたことから担い手数が減少しても面積が大きくは減少していないが、畑・果樹園ではそのような新たな担い手による農地の活用が追い付いていないことを示している。


図1 農家種別 農家数の推移(2000年から2020年まで)
出所:郡山市農林部農業政策課(2022)『第四次郡山市食と農の基本計画』


図2 地目別 農地面積(経営耕地面積)の推移(2000年から2020年まで)
出所:郡山市農林部園芸畜産振興課(2023)『第2期郡山市6次産業化推進計画』

表1 農業産出額(水稲、野菜等の区分ごと)の推移(2013年及び2020年)
  2013(平成25)年度   2020(令和2)年度
 生産規模 (参考)生産量  生産規模 産出額(千万円)
水稲 7,873 ha 約43,000t 7,111 ha 985
大豆 50 ha 72t 72 ha 6
そば 120 ha 30t 160 ha 2
野菜 686 ha 約18,000t 432 ha 477
果樹 118 ha 約1,100t 92 ha 72
花卉 44 ha 約2,700本 18 ha 16
乳用牛 1,320 頭 生乳9,800t 810 頭 68
肉用牛 4,640 頭 約2,800頭 5,513 頭 143
出所:2013(平成25)年度実績は第一次・食と農の基本計画、2020(令和2)年度実績は第四次・食と農の基本計画による。2020(令和2)年度の生産規模のうち作付面積(ha)は水稲については郡山市調べにより、大豆・そば・野菜は農林業センサスによる。果樹と花きの作付面積は2021(令和3)年度福島県普及指導計画による。乳用牛・肉用牛の頭数は農林業センサスによる。産出額は2019(令和元)年市町村別農業産出額から集計したもの。

 表1に、「第一次・食と農の基本計画」に記載されている2013(平成25)年の農作物各品目の生産規模(作付面積・飼養頭数)と、「第四次・食と農の基本計画」に記載されている同じ項目の農産物各品目の生産規模(同)を示している。なお水産物(鯉)と林産物(きのこ類)は別項で記載する。表1を見ると、水稲は面積を1割程度減らしているが、農産物全体の産出額では野菜の2倍程度となり、郡山市の農産物の中で極めて重要な位置を占めることは変わっていない。

 全農業産出額は179.9億円で、水稲が54.8%、野菜が26.5%、畜産(乳用牛・肉用牛を含む)が11.9%をそれぞれ占めている(全農業産出額合計及び畜産の小計は表1掲載以外の値を含む)。

 野菜はこの期間(2013(平成25)から2020(令和2)年)に、面積を686haから432haと大きく減らしている。乳用牛の頭数も1,320頭から810頭と大幅な減少となっている。一方で、大豆・そばの転作作物、また畜産の肉用牛は生産規模が増加している。肉用牛の生産規模の増加は、大規模経営体が現れていることを示している。


図3 2020年度 郡山市内 野菜品目別収穫量
出所:郡山市農林部園芸畜産振興課(2023)『第2期郡山市6次産業化推進計画』

 図3に、2020(令和2)年度における市内産の野菜の収穫量を品目別に多い方から並べた図を示す。ねぎ・トマト・きゅうりの3品目が1,000tを超えており、ついで、だいこん・はくさいが続いている。

 ここで、農林業センサスにより、2020(令和2)年実績から、市内の全3,663農業経営体のうち農産物の販売があった3,397経営体(266経営体は販売がない)の販売金額の規模別の分布を見ると、300万円未満が2,585経営体で、76.1%を構成する。以下、300万円以上1,000万円未満が578経営体(17.0%)、1,000万円以上5,000万円未満が212経営体(6.2%)、5,000万円以上が22経営体(0.7%)である。

 経営耕地面積の規模別の分布を見ると、市内の全3,663農業経営体で、0より大きく2ha未満の経営耕地面積の経営体数は2,399経営体で、65.5%を占める。2ha以上5ha未満は840経営体(22.9%)、5ha以上20ha未満は316経営体(8.6%)、それ以上が41経営体(1.1%)である。

 市内全体で農産物の販売実績がある3,397農業経営体の中で、最も販売金額が大きかった農産物分類の区分ごとの割合を見てみると、稲作が2,903経営体で85.5%と最も大きな割合を占める。露地野菜が146経営体(4.3%)で、以下主なもので、施設野菜84経営体(2.5%)、果樹類56経営体(1.7%)、花き・花木25経営体(0.7%)、また畜産で、酪農38経営体(1.1%)、肉用牛79経営体(2.3%)である。

 また、「第2期・郡山市6次産業化推進計画」では、注目される数字として、市内の農産物直売所の売上金額が2016(平成28)年には約22億円であったのが、2019(令和元)、2020(令和2)年の実績では25億円を超えて好調であることを伝えている。なお、農産物直売所については次項でふれる。