震災後に、郡山市の農業者や農政担当者は様々なレベル(ほ場・流通段階での安全管理の対策から農業の振興、地域再生まで)において連携が進んだ。
2013(平成25)年11月に、「ふくしまオーガニックフェスタ」を初開催した。NPO福島県有機農業ネットワーク、県農業総合センターの有機農業推進室、県生協連、そして県内の浜通りから会津までの有機農業者(本市では、逢瀬町の「中村さんち」など)が実行委員会を組織して郡山市の「ビッグパレットふくしま」で開催した。翌2014(平成26)年と2015(平成27)年は郡山市総合地方卸売市場で開催した。
第1回では、県内外から、本県の有機農業や有機農産物に関心を寄せる消費者を広く招待し、原発事故以後に本県内の農業の復興に取り組んできた成果としての農産物や加工品の販売を行う他に、技術展示、また、県内の有機農業関連の各地区・各団体や、本県の農業復興の調査研究や試験栽培などで関わりのあった各研究グループ(福島大学・新潟大学・茨城大学・横浜国立大学など)によるポスター展示を行った。原発災害からの本県農業の復興は、農家と研究者の連携により、科学的にかつ農家や集落や農協の主体性を発揮して土づくりや栽培管理、安全性確保、そして消費者との新たな形でのコミュニケーションに取り組んで進めて行く必要があるという大きなテーマを浮かび上がらせることとなった。
この時期、2013(25年)10月以降、郡山市の農業振興アドバイザーを務めた新潟大学の野中昌法氏が、同年12月、JA郡山市(現JA福島さくら郡山地区)日和田総合支店にて、水稲農家を対象に講演会「農地再生のための土づくり」を実施、翌2014(平成26)年6月、青年就農者を対象にした営農実態調査と懇談会、同9月、西田町で、畑作農業者を対象にした営農実態調査と懇談会を実施、翌2015(平成27)年7月、田村町の仁井田本家にて自然栽培指導、同11月、農家民宿調査と指導ならびに環境保全型農業ほ場調査と指導、などを市の主催により毎年開催し、有機農業技術による土壌の回復や作物の安全確保、さらに有機農業による付加価値ある農産物の生産に向けて市内農業者の指導を繰り返し行った。
このように、原発事故以後の市内農業者の中には前述の農地除染や農産物検査に加えて農業復興に向けた様々な対策や知見を学びたいという声が高まっていた。
郡山市と福島大学(食農大学院=経済学研究科 食農教育プログラム)は2013(平成25)年11月に連携協定を締結した。その目的には、「郡山市における東日本大震災及び原子力災害からの農業の再生・復興、及び食と農の再生を担うリーダーの育成を図るため」と記載された。締結の記念に、両者の共同主催による公開講座が行われ、前出の野中昌法氏が「放射能からの農地再生、安全な農産物生産と農業振興」と題して講演した(郡山市役所本庁舎特別会議室)。
本講演を第1回として、同年度に、同会場で第2回「風評被害の心理」(12月、東洋大学・関谷直也氏)、翌2014(平成26年)1月に第3回「農業の水循環と放射性物質」(新潟大学・吉川夏樹氏)、同2月には最後となる第4回「水稲の放射性物質の動き」(東京大学・根本圭介氏)と続き、市内外の農業者や市民・研究者・行政職員らによるそれぞれの農業復興に向けた現場の実践課題の定期的な交流の場を形成した。
郡山市と福島大学の共同主催による公開講座は翌2014(平成26)年度に本格化し、農業技術やほ場での安全管理から幅を広げ、第1回「風評対策と食と農の再生」(5月、福島大学・小山良太氏)、第2回「地域社会の再生と内発的発展論」(6月、同・守友裕一氏)、第3回「食品産業の再生と地域の6次産業化」(7月、同・則藤孝志氏)と続いた。
2015(平成27)年度は、「福島県産食品に対する消費者の態度と購買行動」(7月、福島大学・中村陽人氏)、また、「これからの福島に求められる『農学』とは」(12月、前出・根本圭介氏)など、市内の農業者や商工業関係者が直面している課題に対応し、生産面・流通面での復興対策や、より広い視野で農業・農学そのものを再考する講演などで構成している。
福島大学の「うつくしまふくしま未来支援センター(FURE)」が主催して、同年3月に、「原発事故5年目における風評被害の構造と食と農の再生」という規模の大きなシンポジウムを郡山市で開催し、福島大学・小山良太氏を座長とし、前出の関谷直也・則藤孝志・中村陽人各氏らによる報告と討論を行った(公開講座と同じ郡山市役所本庁舎特別会議室)。
本シンポジウムの最後には、「郡山市における風評被害払拭のための提言」が上記メンバーから発表された。それは本県産農産物の検査体制・検査結果に関する周知が有効であること、本県産農産物に対する消費者の理解や変化をとらえること、学校給食での郡山市産農産物の取り扱い再開に向けた協議を開始する条件が整ってきていることなどの専門的な分析の結果に基づくものであった。
なお、この時期、2014(平成26)年9月に、福島大学が農学系教育研究組織(当時は名称未定)の開設を検討しているという報道が出て、県内自治体にキャンパスや付属研究施設の誘致の動きが現れた際に、郡山市も積極的な誘致政策に出るが、この点は別項で記述する。