(7) 福島大学の食農大学院との連携

 前述の郡山市と福島大学(食農大学院=経済学研究科 食農教育プログラム)の連携協定(2013(平成25)年)に基づき、翌2014(平成26)年度から2019(令和元)年度まで、同大学院への市農業系職員及び農業担体職員や農業者の派遣が行われた。

【2014(平成26)年度~2015(平成27)年度】

テーマ「郡山市農政における放射性物質対策の取り組みと今後の課題」(市農林部職員)、「郡山ブランド野菜事業戦略−震災から見えてきた、農業生産者組織の事業戦略」(熱海町農業者、郡山ブランド野菜協議会)「逢瀬町グリーン・ツーリズムを通した地域の活性化について」(逢瀬町農業者、逢瀬いなか体験交流協議会)

【2015(平成27)年度~2017(平成28)年度】

テーマ「過疎中山間集落における農業と畜産の複合による新たな地域6次化戦略の提案と実践」(田村町農業者、放牧養豚「ふるや農園」)、「農業経営の安定と発展(鈴木農園をモデルに)」(田村町農業者、鈴木農園)

【2016(平成28)年度~2017(平成29)年度】

テーマ「東日本大震災による原発事故に伴う放射能汚染とそれに対する郡山市の放射線対策と今後の発展的農業の展開」(市農林部職員)、「スーパーマーケットにおける地場農産物に対する販売者の課題と対応」(量販店関係者)

【2017(平成29)年度~2018(平成30)年度】

テーマ「農業協同組合をより良くするための実践と提案」(市農協職員)、「菌床シイタケと水稲の複合経営の発展について」(日和田町農業者、アグリプロ八丁目)

【2018(平成30)年度~2019(令和元)年度】

テーマ「郡山市農業における先端技術導入の可能性と効果−ワイン用ブドウ栽培ほ場における実証結果に基づく検討」(市農林部職員)、「価値を創造する農業−少量多品目栽培農家の経営課題」(大槻町農業者、郡山ブランド野菜協議会・鈴木農場)、「持続可能な酪農家族経営体とは」(田村町農業者、植田牧場)

 食農大学院では、郡山市から派遣された上記の大学院生が中心となり、県北・浜通り・会津の農業関係から参加した大学院生が合わさり、それぞれの仕事の現場の課題を持ち寄った。それに対し演習やフィールドワークに共同で取り組むことで、知見を共有したり、課題の解決を共に目指したりすることを通じて、修了後も県の農業復興に取り組むネットワークが郡山市を核として形成された。


図19 福島大学の食農大学院
農業の復興における放射性物質の低減対策から、新たな需要づくりと産地創出、6次化戦略、担い手づくりまで幅広く議論する大学院生たち。2014年5月(福島大学資料)


図20 逢瀬町の農家民宿「中村さんち」


図21 同冬季湛水田
食農大学院のフィールドワークで調査を実施。同民宿が中心となって推進している同町の農産物を活用した地域活性化、グリーンツーリズムの取り組みとともに、環境と生物多様性を守る「冬に白鳥、夏にメダカがいる田んぼ」の米作りを詳しく学び、また原発事故をどう乗り超えるか避難区域出身の大学院生も交えて課題を語り合った。 2015年12月(筆者撮影)


 前述の郡山市と福島大学の連携協定(2013(平成25)年)に基づく郡山市役所本庁舎特別会議室での公開授業の開催は、以下のように進展した。

 2016(平成28)年6月「原発事故からの5年間の総括と今後の課題」(前出・小山良太氏)、同7月「『地方創生』はこれでいいのか−地域づくりを基礎から考える」(福島大学・守友裕一氏)、他。

 2017(平成29)年6月「発酵学が福島の未来を拓く」(福島大学客員教授・小泉武夫氏)、同7月「近未来の日本農業と農村社会」(福島大学・生源寺眞一氏)、同12月「地域資源活用の新展開−農(野菜)・林(キノコ)・畜(ブタ)の“美味しい”関係」(前述)(同・林薫平)、2018(平成30)年1月「郡山ブランド×グリーンツーリズム戦略」(同・則藤孝志氏)、他。

 この2017(平成29)年12月の回と2018(平成30)年1月の回の2回は、食農大学院の大学院生たちからの実践報告を交え、また、原発事故以後に避難指示が続いてきた浜通り地域(飯舘村、田村市都路町を含む)からの参加者もあり、郡山・中通り地域を中心に積み重ねてきた農業の復興、自然環境の回復、農村の再生の実践の成果を、後発の浜通りの復興に生かしていくという意識でディスカッションが行われた。

 2018(平成30)年6月「これからの稲作−美味しい米の構造は、どこが違うか」(福島大学・新田洋司氏)では、これから新たな農産物のブランディングを進め、農産物の特徴や付加価値を有利な販売につなげていく観点から、郡山の水田・水資源・農地の特徴と米の品種ごとの特徴を踏まえた戦略策定が提唱された。


図22 連携事業による公開授業「これからの稲作」(新田洋司氏)
稲作をする県内の農家の仕事が一段落した6月に開催され、県中地域・浜通り地域などから、多くの参加があった。 2018年6月(福島大学資料)