(9) 果樹6次産業化、逢瀬ワイナリー誕生

 郡山市と三菱商事復興支援財団の間で2015(平成27)年に入って連携協定が締結され、「果樹6次産業化プロジェクト」が開始されたことは、本『郡山市史 続編5』の対象期間における郡山市農業の重要な事項である。逢瀬町にワイナリーが建設され、10月に竣工した。また同年、郡山市内の農家が、ワインの原料となる専用品種のブドウの苗木を市の事業によって植え付けし、3年後以降の収穫を目指した。

 ワイン用ブドウの生産グループは、「郡山地域果実醸造研究会」を立ち上げ、三穂田町の橋本農園が代表を務めた。橋本農園は、県のオリジナル生食用ブドウ「あづましずく」の栽培と観光果樹園の経営に実績があり、ワイン用原料の栽培でも牽引役となった。

 本プロジェクトは、この逢瀬町のワイナリーを中核として、まず先端の醸造技術によって市内産の果実の加工利用(リキュール製造など)を促進し、また、ワインに関しては、市内の果樹農家だけでなく野菜やキノコなどを主とする農家が幅広く原料用のブドウ栽培を手掛けるコミュニティ形成を意図した。そこで、醸造された郡山市産ワインを契機に、市内産の農産物・畜産物や、林産物(キノコ類)・水産物(特に鯉)の新たな食文化を創出し、農業・農産物加工業、また、飲食店や観光業に相乗効果をもたらしていこうとする大きなビジョンを掲げたものである。

 ワイナリーでは同年に植栽した原料用ブドウが実るのを待つ間、先行して、県内産のリンゴ・モモ・ナシ(熱海町産を中心とする)の本県を代表する果実原料を用いてリキュール類を醸造した。

 並行して郡山市では、欧州のハンガリーとの交流を開始し、当地では、個性あるワイン(貴腐ワインなどの高い付加価値を持ったものなど)と、食文化、特に肉類(在来種のマンガリッツァ豚など)や、淡水魚(特に鯉)の料理を結びつけていることから、ワイン醸造を軸として地場産業と観光業を幅広く発展させている姿を学んでいる。

 2017(平成29)年11月に、ワイナリーのお披露目の場として初のワイナリーマルシェが逢瀬町で開催され、翌年(2018(平成30)年)より本格的な形で、装いを新たにして「ふくしまワイナリーフェス」が開催された。

 ワイナリーフェスでは、ワイナリーの地元である逢瀬町の「おうせ茶屋」と「ポケットファームおおせ」と「郡山アグリサービス」、また、JA全農福島・愛情シイタケの「サンマッシュ青年部」、さらに、市内東部の田村町から特産品を持ち寄って出店した「ふるや農園・楪(ゆずりは)園芸」(いずれも、ワイナリー出荷用のブドウ生産者)らの出店団体が交流し、来場者と、原料から醸造技術まで全て郡山市産のワインが誕生したあかつきに、どのような食文化を発展させていくか語り合った。

 前述の協定の下に多大な支援を方針化した三菱商事復興支援財団の考え方は、10年後の2025(令和7)年までにワイナリーによる地域復興の道筋をつけたのち、地元にワイナリーを継承していくものであり、市側で引き取って運営していく準備をしていく必要がある。

 また、別記のように、2019(平成31)年4月に福島大学に新たに「食農学類」が開設され、その中の教育の目玉として注目される「農学実践型教育プログラム」のフィールドの一つは、郡山市における「ワインを核とした地域農業の活性化」と課題設定され、学生の地域密着型の果樹栽培やワインに合う食文化に関する研究の対象地となっている。

 郡山市産のワイン原料用ブドウは2018(平成30)年に初収穫され、醸造過程を経て、翌2019(平成31)年3月に発売開始され注目された。自分の家を意味する「おらげ」という方言をもじって、「Vin de Ollage」(ヴァン・デ・オラージュ)と命名された。

 ワイン原料のブドウは年数を経過して味わいを増すものであり、それまで、市内農業者や飲食店が共に育ててワインと食文化を共に発展させていける形を作ることができるかが重要である。地元に移行した後の運営体制を、福島大学などの教育・研究機関とも協力して長期的な視野に立って構築していけるかが問われている。


『福島民報』2015年6月5日

 


『福島民報』2015年6月6日

 


図25 ふくしま逢瀬ワイナリー竣工式での内覧会 2015年10月(筆者撮影)

 


『福島民報』2015年6月7日

 


『福島民報』2015年12月21日

 


図26 ふくしまワイナリーフェス
地元の「おうせ茶屋」などの団体と交流する福島大学生。同大のドイツ・ハンガリー・東欧など出身の交換留学生のグループが、各国におけるワインに合う野菜・肉・魚の伝統料理を紹介するパネルを展示した。2018(平成30)年8月(福島大学資料)

 


『福島民報』2018年8月28日

 


『福島民報』2019年3月6日