(10) 食大学構想と開成マルシェ、郡山方式による食・農の復興へ

 2013(平成25)年8月、郡山市に拠点を置く日本調理技術専門学校(日調:Nitcho)が、一般社団法人「食大学」を設立し、市内の農林水産業者や、商店街・商工業者、飲食店・料理人たち、また市民・子ども・学生・観光客などを広く結びつけていく試みを、大槻町の鈴木農場らと共に創始した。

 発想は、原発事故後の影響を乗り越えつつあった地元の農産物や食材に関するデータや情報を明らかにすることによる販路の回復を意図し、それぞれの素材の魅力や個性を解明して発信する。さらにそれらを引き立てる調理法を探究して多くの人を参加型で巻き込み、郡山発の食と農のうねりを起こそうという意欲的なものであり、震災後に本県で生まれた地域発の復興の実践の中でも注目すべきものであった(2013(平成25)年12月の福島大学での打合せ資料による)。

 食大学は、具体的に、2014(平成26)年6月に、株式会社柏屋の開成柏屋のポケットガーデンにおいて「開成マルシェ」を開始した。そこでは、郡山ブランド野菜協議会などの農業者団体による旬の野菜の物販や、市内や隣接する自治体からの多彩な農産物・加工品・スイーツなどの出店者が集った。

 このマルシェの開始は、同年3月に、同ガーデンの横にトレーラーハウスで開店した「福ケッチャーノ」(山形県の鶴岡市のアル・ケッチャーノが日調と協力して出店した地元の野菜・肉・魚の素材を活用するスタイルのフレンチレストラン)が、「御前人参」などの郡山ブランド野菜や、田村町の鈴木農場による「ジャンボナメコ」などの郡山市にしかない個性ある食材を扱い、人気が出始めていたこととも連動している。

 また翌年の2015(平成27)年、開成マルシェを拠点に、「孫の手トラベル」が、マルシェに出品されている農産物の産地をめぐって現地で青空の下で料理を味わえる「フードキャンプ(FoodCamp)」を開始したのも特徴的な試みである。後に、市外の二本松市・猪苗代町・いわき市などにも広がり、また田村町の“自然酒蔵”・仁井田本家のスイーツデー(こうじスイーツが振る舞われる)とも連携するようになった。

 2016(平成28)年2月に、キリングループによる「復興応援 キリン絆プロジェクト」に認定された郡山ブランド野菜協議会は、新規事業による新たな食文化の創造や幅広い連携、若年層を巻き込んだ郡山市の新たな食づくりを展開していくことを表明した。協議会副会長の鈴木光一氏(鈴木農場)は、「農業問題の解決策として郡山方式を提案していきたい」と述べた。

 この「郡山方式」とは、郡山ブランド野菜協議会と日調を核として、福ケッチャーノ、食大学、開成マルシェ、そしてフードキャンプという、震災から3年が経過した2014(平成26)年ごろの時期から芽生えて広がってきた食と農とツーリズムの連携による地域復興の実践全体を意味しており、震災後の福島だけでなく、現在の日本各地の農業や農村の再興にも寄与しうる独自性・先駆性を持つものである。

 復興庁の「新しい東北」交流会in郡山が、2016(平成28)年11月にビッグパレットふくしまで開催され、そのパネル・ディスカッション「農業が語る未来のふくしま」で、パネリストの鈴木光一氏は、同協議会や食大学の新たな挑戦について語り、同じくパネリストの、郡山市に前年の2015(平成27)年に設置された「鯉係」の箭内係長は、市の特産物である鯉の新たな食文化の創出の方針について発言した。

 筆者はモデレーターを務め、総括発言として、郡山市の個性ある農産物(野菜・果実)や、水産物と、それぞれの価値を引き出す調理技術、そして数年内には醸造開始される郡山市産のワインが、郡山発の食と農と観光業の変革をもたらすと述べ、震災復興が5年経って明確に次のステージに入りつつあることを付言した。


図27 開成柏屋ポケットガーデンで開催された開成マルシェ
この時期、開成マルシェを拠点に農村部の産地をめぐる孫の手トラベルの「フードキャンプ」が開始された。 2015年8月(筆者撮影)

 


『福島民報』2016年3月2日

 


図28 復興庁「新しい東北」交流会in郡山(2016年11月)ポスター(抜粋)