2019(令和元)年、台風第19号(令和元年東日本台風)の接近により本県では10月12日午後から風雨が強まり、台風が本県を通過する翌13日未明にかけて猛烈な雨がもたらされた。
10月12日の19時50分には郡山市全域(湖南町を除く)に対して数十年に一度のレベルとされる「大雨特別警報」が発表された(湖南町に対しては同日22時に発表)。湖南町も含めて市内全域で翌13日未明の4時に大雨警報へ移行している。
10月11日15時から13日6時までの降水量は、郡山観測所で195.5mm、湖南観測所で213.5mmと凄まじい記録となった。
阿武隈川の阿久津観測所では氾濫危険水位が7.9mのところ13日1時30分に最高水位10.01mとなり、逢瀬川の富田観測所では同じく氾濫危険水位が3.6mのところ12日の23時時点において最高水位4.00mを記録している。
『資料編』(第6編・1-10(6))にある農作物等の被害では、農作物については水稲76haで浸水等の被害が田村町、西田町、富久山町、日和田町において出ている。野菜・果樹等では、26ha、阿久津、安原、横川、横塚、田村町、西田町、逢瀬町、富久山町、中田町で被害にあっている。田村町では乳牛19頭、牛舎1棟が被害にあっている。
他に、農道、溜池、農業用水、施設、機械等の水没などの被害は阿武隈川東岸のいわゆる「三田」地域や日和田町、富久山町の一部において顕著に出ており、郡山市での農業関連被害総額は約24億5,760万円に上った。
『資料編』(第6編・1-10(6))の菌床6万5,400個とあるのは日和田町の「アグリプロ八丁目」における被害であり、同法人のシイタケ菌床は全滅した。洪水は、シイタケの施設では前年から仕込んできた菌床からシイタケが出始め、いよいよこれから出荷が始まるという時期であった。
アグリプロ八丁目のシイタケ・水稲の複合経営は以下のように集中的に取り組まれた。
復旧作業は年を越す猶予なく、シイタケ栽培用のハウスと菌床の片付け・復旧作業と、翌年4月に必要となる水稲の育苗用ハウスの復旧を優先して並行して急ぎ行われた。
建て直されたシイタケ栽培用のハウスでは、JA全農福島菌床しいたけイノベーションセンターから仕込み済みの菌床を2020(令和2)年2月以降、連続的に仕入れて搬入して間に合わせた。自社での菌床の製造と仕込みは翌2021(令和3)年に入ってから設備が整うこととなった。
水田に関しては、アグリプロ八丁目では、堤防決壊(藤田川が阿武隈川に合流する富久山クリーンセンター辺り)による洪水の勢いで水田が破壊され、その部分は復旧に時間を要したために作付の再開は翌年は間に合わず2021(令和3)年となった。
一方、農機やショベルカーで均平化・整地ができるところは、高いところの土を低いところに盛って均し、播種・育苗に必要な機械や設備の復旧も間に合わせて、翌2020(令和2年)の作付けを可能とした。
これまでに経験したことのない洪水により、シイタケ施設、菌床設備や、水稲栽培に関わる播種・育苗、また収穫・乾燥に至る設備一式、さらに水田そのものにも大きな被害を受けたアグリプロ八丁目であったが、同法人メンバーの休む間もない努力が投じられたことと、迅速な行政支援も助けとなり、2020(令和2)年、2021(令和3)年と段階を踏んで復旧・再開を果たし、令和元年東日本台風からの郡山市農業の復興を牽引する地区となったのである。