郡山市の産業振興政策の基本方向は、同市の行政運営の最上位計画である総合計画において示されている。ここでは、最近10年を「郡山市第五次総合計画・後期基本計画」の期間(2013(平成25)~2017(平成29)年度)と、「郡山市まちづくり基本指針(あすまちこおりやま)」の前期4年間(2018(平成30)~2021(令和3)年度)に区分し(表1)、それぞれにおける産業振興政策の基本方向と関連施策についてみていく。
名称 | 年次 | 主な出来事 |
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郡山市第五次総合計画 | 2008~2012年 | 東日本大震災・東電福島第一原発事故(2011年3月)
郡山市復興基本方針(2011年12月) |
2013~2017年 後期基本計画 |
まち・ひと・しごと創生総合戦略(2014年)
郡山市6次産業化推進計画(2017年) 郡山市中小企業及び小規模企業振興基本条例(2017年) |
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郡山市まちづくり基本指針 (あすまちこおりやま) |
2018~2021年 前期4年間 |
こおりやま広域連携中枢都市圏(2019年)
令和元年東日本台風(台風19号)(2019年10月) 新型コロナウイルス感染症の感染拡大(2020年) ウィズコロナ政策(2021年) 福島県沖地震(2021年2月) |
a 郡山市第五次総合計画・後期基本計画(2013(平成25)~2017(平成29)年度)
「人と環境のハーモニー 魅力あるまち郡山」を将来都市像に掲げ、2008(平成20)年に向こう10年間の指針として策定された郡山市第五次総合計画では、1.市民が主役の郡山、2.継続と創造、3.ハードよりソフト、4.選択と集中を基本理念に定め、市民を中心に多様な主体が協働するまちづくりが目指された。産業振興に関しては、「大綱5 活気にあふれ躍動する産業のまち」の中で、1.食と農を育む魅力あふれる農林業のまち(農業分野)、2.活力と賑わいのある商業のまち(商業分野)、3.新しい価値を創造する工業のまち(工業分野)、4.感動に出会える観光・コンベンションのまち(観光分野)、5.安心して生きいきと働けるまち(雇用分野)という5分野の基本施策が掲げられた。具体的な施策は多岐にわたるが、総じて、地域に根ざした中小企業(農業経営体含め)の育成や産業間及び産学官の連携推進など、内発的な発展手法を重視した内容だったといえる。
第五次総合計画が中盤にさしかかろうとした2011(平成23)年3月、東日本大震災が発生した。大地震の損害に加え、東京電力福島第一原子力発電所の事故による原子力災害は、市民生活のみならず農業をはじめとする産業・経済にも大きな損害をもたらした。これら災害からの一日も早い再生を図るため、市は復旧・復興に向けた指針となる郡山市復興基本方針を同年12月に策定した。
2013(平成25)年を初年度とする第五次総合計画の後期基本計画(2013(平成25)~2017(平成29)年度)では、郡山市復興基本方針と整合させるかたちで、震災・原子力災害の復旧・復興がまちづくりの主要課題に位置づけられた。具体的には「大綱7 手を取り合って明日を創るまち」が加えられ、産業再生に関しては、農業及び商工・観光業に共通する風評被害の払しょく、農業生産における放射性物質対策(農地除染、吸収抑制対策、モニタリング検査等)、経済波及効果の高い各種コンベンションの再開・誘致などの施策が示された。
また、特筆すべき点として、新たな産業づくりと雇用創出に向けて再生可能エネルギーや医療機器の分野に着目し、産学官が連携して研究拠点の整備や産業集積を図ることが記された。これに関わって、産業技術総合研究所(産総研)の福島再生可能エネルギー研究所(2014(平成26)年、西部第二工業団地)や、医療機器の開発から事業化までを一体的に支援する拠点としてふくしま医療機器開発支援センター(2016(平成28)年、富田町)が開所し、産学官連携による新しい産業の集積が生まれている。
ここで、後期基本計画の期間内(2013(平成25)~2017(平成29)年度)における産業振興政策に関わるトピックスとしてさらに2点取り上げておきたい。
一つは、地方創生の動きである。2014(平成26)年12月のまち・ひと・しごと創生総合戦略の閣議決定をうけて、市では2016(平成28)年2月に郡山市総合戦略を策定した。これは合わせて策定された郡山市人口ビジョンで示された「2040年に30万人程度を維持」するために取り組む具体的な方向性を示したものである。基本目標の一つに「しごとみがきと産業の活性化」を掲げ、そこでキーワードになっているのが6次産業化である。2015(平成27)年に同市逢瀬町に完成したふくしま逢瀬ワイナリーを中心として果樹(醸造用ブドウ等)の生産・加工・販売を一体的に運営する果樹農業6次産業化プロジェクトや、特産品である鯉の認知拡大と消費拡大を通して鯉食文化の継承・発展を目指す「鯉に恋する郡山プロジェクト」がこの頃に始動した。さらに、こうした農林漁業(1次産業)と異業種(2次、3次産業)との連携や相互参入を促進する指針として郡山市6次産業化推進計画が2017(平成29)年に策定された。
もう一つは、中小企業振興の動きである。2010(平成22)年に政府が閣議決定した中小企業憲章では、中小企業を「経済を牽引する力であり、社会の主役である」と位置づけている。郡山市においても中小企業は、地域経済や雇用を支える重要な存在であることに間違いないが、社会・経済環境の変化や震災・原子力災害の影響により困難な状況にある企業も少なくない。これまでの総合計画等においても中小企業の育成や支援が掲げられてきたが、その重要性を再認識し、持続的な発展が可能となるよう施策を一層推進することを目的に、郡山市中小企業及び小規模企業振興基本条例が2017(平成29)年に制定された。そこでは行政や大企業、金融機関、学校・大学、そして市民の責務・努力・役割・理解及び協力についても明記され、中小企業・小規模企業を地域社会全体で支えていく重要性が示されている。また中小企業・小規模企業の振興に関する事項などについて意見交換を行うための、民間の有識者等で構成される郡山市中小企業及び小規模企業振興会議が設置された。
b 郡山市まちづくり基本指針・前期4年間(2018(平成30)~2021(令和3)年度)
第五次総合計画の後を受けて、2018(平成30)年度よりスタートしたのが郡山市まちづくり基本指針(以下、「あすまちこおりやま」)である。従来の「総合計画」という表現ではなく、市民一人ひとりが自分たちの指針だと思えるよう「まちづくり基本指針」という表現が用いられている。策定に当たっては、2016(平成28)年に市民会議「あすまち会議こおりやま」を立ち上げ、産業や観光、子どもたちの未来など五つの分野においてワークショップを開催し、市のあるべき将来像を探ってきた。このような市民協働で作り上げたこの指針は、市政運営の最上位指針であるとともに、市民が主役となるまちづくりの羅針盤でもある。
「みんなの想いや願いを結び、未来(あす)へとつながるまち 郡山~課題解決先進都市 郡山~」を将来都市像とする「あすまちこおりやま」は、市民や事業者とともに目指す将来都市構想を描く「公共計画(8年計画)」と、その実現に向けて行政が取り組む施策やロードマップを示す「行政計画(4年計画で毎年ローリングによる見直し)」の2階層で構成されている。
また、理想や目標とする将来構想を描き、「そのために将来必要になること」と「そのために今できること」を考えるバックキャスト思考が取り入れられているのも特徴といえる。例えば、産業振興の基本路線を定めた「大綱Ⅰ 産業・仕事の未来」では、1.みんなが誇れる「郡山といえばこれ!」という産業があるまち(商工業振興・企業誘致・流通・起業支援)、2.楽しくてやりがいのある満足できる仕事のあるまち(雇用・就労環境)、3.農林業が盛んで、市民の身近な産業となるまち(農業振興・林業振興・6次産業化)が基本施策として掲げられているが、それぞれに具体的な未来像が列挙されている(表2)。これに向けて一人ひとりができる小さなアクション(マイ・プロジェクト)は「公共計画」に示され、行政が取り組む施策メニューは「行政計画」で体系的に示された。
「あすまちこおりやま」からは、次の2点の基本テーマを読み取ることができる。一つは震災・原子力災害の復興推進である。東日本大震災から5年以上が経過し、発災当初の放射能汚染問題への緊急的対応を主とする「復旧のステージ」から、将来を見据えた「地域づくりのステージ」に移行する中で、同指針では大綱Ⅰ~Ⅴの横断的取り組みとして「復興・創生の更なる推進」を掲げた。もう一つは新たな時代の潮流である。Society5.0(狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会に続く、新しい社会)という言葉の通り、スマートフォンが急速に普及し、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)がインフラ化する中で、行政運営や地域づくりにもICT(通信情報技術)やAI(人工知能)を積極的に活用していく方向性が示された。
1 みんなが誇れる「郡山といえばこれ!」という産業があるまち | |
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「オール郡山」と呼べる産業や名産品がある | |
市民が市の産業や物産を熟知し、誇りを持つことができる | |
市民生活に寄り添った身近な商業が発展している | |
世界に通用する産業技術が発展・集積している | |
自己実現を果たすことのできる魅力ある企業がある | |
市民一人ひとりのアイデアを具体化できる機会がある | |
2 楽しくてやりがいのある満足できる仕事のあるまち(雇用・就労環境) | |
郡山で学んだ人、郡山で働きたい人が希望の仕事に就職できる | |
よりよい労働環境のもと、誰もが楽しく、気持ちよく仕事することができる | |
市民が誇りにできる地元産業が活性化している | |
新しい技術や社会の変化に対応できる人材育成が図られている | |
3 農林業が盛んで、市民の身近な産業となるまち | |
農林業が快適で魅力的なものとなる | |
農林業の高付加価値化、効率化が図られている | |
若い農業従事者や後継者など次の世代の担い手が増える | |
日常生活や学校などで地域の農林業に親しむ機会がたくさんある |
こうした方向性に対応した産業振興のあり方(基本方向)を一言で表現するならば、それは「連携の広がりと深化」であろう。多彩な産業がバランスよく発展した郡山市の特徴・強みを活かす方向性は第五次総合計画以前から敷かれた基本路線であるが、その重要性は時代を経ても変わらないといえる。例えば、震災後に萌芽した再生可能エネルギー分野や医療機器関連産業の集積と発展を産学官が一体となって推進する戦略は「郡山といえばこれ!」という産業づくりの要となっている。
上記の連携の広がりと深化に関しては、こおりやま広域連携中枢都市圏(こおりやま広域圏)の取り組みが注目される。2019(平成31)年1月、郡山市が連携をリードする中枢都市となり、県中地方を中心とした15市町村で連携協約を締結した(10月には二本松市も参画)。同年3月には「広め合う、高め合う、助け合う~持続可能な圏域の創生~」をテーマとする連携中枢都市圏ビジョンを策定した。これは防災・災害対応や市民生活を含むまちづくり全般の連携を推進するものであるが、産業振興に関しては「多様かつ高度な産業研究機能集積を生かし、圏域内の公・共・私の境界を越えた主体的な研究連携を促進するとともに、国際的な視野にも立った広域産業圏として更なる発展を目指す」と明記された。
また、郡山市では産業間の連携を促進するプラットフォームの形成に取り組み始めた。2017(平成29)年に市内の製造業を主な対象とした「こおりやまものづくり企業ガイド」のウェブサイトを開設し、事業者間のマッチングを図ってきたが、2021(令和3)年には、連携の範囲を農業、福祉、商業、工業の分野に広げ、農・福・商・工の各事業者のシーズやニーズを可視化し、事業者間の交流促進や連携強化による販路拡大、さらにはイノベーションの創出につなげることを目的に「こおりやま広域圏農福商工連携企業・団体ガイド」としてリニューアルした。
さらに、多彩な産業のプロモーションにも力を入れている。こおりやま産業博(KORIYAMA EXPO)は、市内の商業、工業、農業、観光、医療、福祉など多岐にわたる産業が一堂に会し、市内外へ魅力あふれるプロモーションを行う総合展示会として、ビッグパレットふくしまを会場に2015(平成27)年より開催されている(郡山市、郡山商工会議所、福島さくら農業協同組合、郡山地区商工会広域協議会で組織する実行委員会が主催)。郡山市の産業の魅力を「見て」「触れて」「体験」できる一般公開展示に加え、販路拡大のためのマッチング(企業間取引)も実施していた。新型コロナウイルスの感染拡大により2020(令和2)年度は中止され、2021(令和3)年度はオンライン開催となったが、それ以前は毎年、市内外から約2万人が来場する大規模な総合展示会となっていた。