(3) 自然災害及び感染症に対応した産業政策の構築

 前述のとおり、2018(平成30)年度よりスタートした郡山市まちづくり基本指針(「あすまちこおりやま」)は、2021(令和3)年3月に迎える震災10年の節目に向かって復興・創生を一層前進させることを一つのテーマとしていたが、2019(令和元)年10月の令和元年東日本台風(台風第19号)による大規模水害と2020(令和2)年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、気候変動や感染症への対応がまちづくり課題の中心となった。

 令和元年東日本台風(台風第19号)は、2019(令和元)年10月に日本列島を襲い、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨をもたらした。郡山市では阿武隈川とその水系の河川(谷田川、藤田川、逢瀬川、笹原川)で堤防の決壊や越水が発生し、市内で死者6名を含む甚大な被害をもたらした。産業・経済への損害も大きく、農業分野(きのこ栽培含め)では水害により多くの農地や機械、ハウス等の生産資材が被災した。商工業分野でも、阿武隈川付近に立地する郡山中央工業団地や郡山食品工業団地の被害が大きかった。筆者が調査を実施した郡山食品工業団地では、1986(昭和61)年8月の台風第10号による水害(8.5水害)以来の規模であり、被害の大きさは8.5水害ほどではなかったが一部の事業所が浸水したほか、企業によっては8.5水害時よりも復旧に時間を要したところもあったという。

 台風第19号の被害は2019(令和元)年11月に国の激甚災害の指定をうけるとともに、郡山市では被災企業に対する融資や市内移転・防災対策等への補助をはじめとする財政支援や経営相談体制の強化などの各種施策を緊急に実施した。また、市内には工業団地や卸団地、トラック団地をはじめ12の産業団地があるが、今後来る災害に備え団地間の情報共有や連携を図ることを目的に2020(令和2)年4月に市産業観光部産業政策課内に産業団地室が設立された(2022(令和4)年4月に産業創出課へ移管、産業団地連携室に改称された)。このように、近年の複雑化・大規模化する自然災害を踏まえ、SDGsの目標(ゴール)13「気候変動に具体的な対策を」の実現に向けて気候変動を前提とした産業振興の枠組みが求められている。

 この台風第19号の発災からまもない2019(令和元)年末頃より、中国・武漢市に端を発した新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)が急速な勢いで世界中に拡大した。日本においては2020(令和2)年2月頃から全国的に感染が広がりをみせ始め、4月には政府が初めての緊急事態宣言を行った。「コロナ禍」の始まりである。

 郡山市では、2020(令和2)年4月に政府が閣議決定した新型コロナウイルス感染症緊急経済対策を基本に、県の経済対策や市独自の施策を加えた「郡山市中小企業等応援プロジェクト」を立ち上げた。新型コロナウイルス感染症の影響により業況が悪化している事業者等を対象に、支援金・給付金や補助金、融資制度、雇用継続支援などを組み合わせた体系的な支援事業を展開し、事業の継続及び雇用の維持を図った。

 2021(令和3)年2月には改正新型インフルエンザ特措法の成立及び改正感染症法が成立し、まん延防止措置が新設された。3月以降及び7月以降にそれぞれ感染拡大の第4波と第5波が押し寄せ、全国的に緊急事態宣言や「まん防」が発令された。これをうけ市では中小企業等応援プロジェクトの施策を強化するとともに、テレワークを含むICTを活用したデジタル化・リモート化などポストコロナを見据えた新たな事業変革にチャレンジする事業者の取り組みについても推進した。

 2020(令和2)年度は中止となった先述のこおりやま産業博(KORIYAMA EXPO)は、2021(令和3)年10月に「未来再構築 Re FUTURE」をテーマに、ポストコロナを見据えた地域産業・経済の振興を目的に2年ぶりにオンラインにて開催した。約60社が出展し、各社の製品や企業理念、技術力の高さをオンラインブースで発信し、各産業の魅力を広くPRした。あわせて産業教育に取り組む専門学校をはじめ市内の学校を対象に、コロナ禍で制限された学生の成果を発表する機会として「こおりやまオンライン文化祭」も同時開催し、市内の13校が卒業制作、部活、サークル活動などの成果を動画で発信した。