(2) 食のブランド化に取り組む協議会

 本節冒頭で述べたとおり、郡山市は県内有数の農業地域であると同時に、豊かな「食」(食品産業、食文化)が魅力のグルメ都市でもある。市内には数多くの食品事業者が立地し、県内外で広く親しまれる銘柄・逸品や名店と評される飲食店も少なくない。こうした郡山市の食と農のブランドを、業界の垣根を越えて関連団体が連携して育んでいくことを目指して「こおりやま食のブランド推進協議会」(以下、ブランド協議会)が2018(平成30)年に設立された。この協議会には、郡山市(農林部園芸畜産振興課)や福島県(県中農林事務所)、地元農協のJA福島さくら、郡山商工会議所、郡山美味しい街づくり推進協議会、郡山食品工業団地協同組合、南東北内水面養殖漁業協同組合(旧県南鯉養殖漁業協同組合)、そして市内のコメの販売業者や食品事業者など約35団体・企業が参画し、市産農水産物・食品のPRや販売促進に取り組むとともに、付加価値の高い新商品の開発や地域特性を生かした特産品の育成を進めている。

 郡山市の特産品である鯉の商品開発もブランド協議会で取り組む事業の一つである。市では2015(平成27)年に農林部園芸畜産振興課の中に「鯉係」を設置し、南東北内水面養殖漁業協同組合と連携して「鯉に恋する郡山プロジェクト」に取り組んできた。ブランド協議会では多様なコラボレーションによる商品開発を通して同プロジェクトをサポートし、例えば鯉とカレーの組み合わせに着目した「郡山の鯉カレー」(レトルトカレー、2021(令和3)年発売)や鯉をメインの具材とするスパイスカレーの開発などに取り組んでいる。

 また、ブランド協議会が主導するコメに関する新たな挑戦にも注目である。郡山市でコシヒカリの最高峰を目指す「ASAKAMAI887(アサカマイハチハチナナ)」の取り組みである。県内有数の米どころである郡山市では、かつてより「あさか舞」というブランドで米を販売してきたが、これに対しASAKAMAI887は、七つの厳格な生産基準をクリアしたあさか舞コシヒカリのみが呼称できる上位ブランドである。「887」の名称は、伝統的な米作りに要する88の手間数と下記の七つの基準に由来する。1.食味値88点以上、2.タンパク質含有量6.1%以下、3.ふるい目2.0ミリメートル、4.整粒歩合80%以上、5.特別栽培米、6.GAP(農業生産工程管理)認証、7.カーボンニュートラル水田(温室効果ガスの排出量を低減させる配慮がなされた水田)、これら七つの生産基準にすべてクリアできる米は、高い栽培技術を有する登録生産者の米の中でもごく一部であり、こうした厳しい生産基準を課すことで、品質面の差別化を実現している。ブランド協議会ではASAKAMAI887に関わる各種イベントやキャンペーンを展開してプロジェクトを推進している。

 このように、こおりやま食のブランド推進協議会のように広い裾野をもつ食農産業と食の郡山ブランドを地域が一体となって育んでいくことは、これからの郡山市の産業政策のあり方と方向を一にするものといえるだろう。

(則藤 孝志)