(1) 地方自治と地方財政

 地方自治体は、私たちの暮らしと密接な関わりを持っている。道路や橋、公園、上下水道などの生活インフラを整備し、地域産業の振興や地域における雇用の確保に取り組んでいる。保育や教育、医療・介護・福祉サービスの提供も地方自治体が担っている。さらに、災害対策や環境問題、少子化問題についても対策を講じるなど重要な役割を担ってきた。

 地方自治体は、地方自治に基づき、主権者である住民の権利の一部を信託されている。住民が健康で文化的な人間らしい生活を営めるように、住民の生存権を保障し、福祉の増進をはかるとともに、地域の持続可能な発展を支える役割を地方自治体が担っている。住民のニーズは、家族形態やライフスタイルの変化や技術の進歩、災害の発生など、時代の移り変わりに伴って変化し、多様化している。そうした住民のニーズに対応するなかで、地方自治体の活動は多面化している。

 このような活動を行うために、地方自治体は収入を得て、さまざまな事業を行い支出している。地方自治体の主な収入は税金である。住民から徴収する地方税に加え、国税等を原資に国から交付される国庫支出金や地方交付税等を受け取り、地方債を発行するなどして財源を確保している。

 財政は社会構成員の「共同の財布」である(神野直彦(2007)『財政のしくみがわかる本』岩波書店)。地方自治体がもつ共同の財布は、民主主義に基づいて、予算制度を通じて、住民の共同意思決定のもとに運営されている。首長が予算編成して提案し、市民を代表する地方議会の議決を経て、行政により予算が執行される。決算の監査を経て、議会による決算の認定を受ける。地方財政は、こうした一連の予算制度を通して行われる地方自治体の経済活動であり、また地方自治を支えるものである。

 予算制度を通じてつくられた予算書及び決算書には、時代の変化や住民のニーズに対してどのような対応がされてきたか、地方自治体の姿勢が映し出される。本節では、郡山市の予算書及び決算書から、2012(平成24)年度から2021(令和3)年度までの10年間における財政状況と主要な出来事や施策に対する財政措置について論ずることとしたい。