(5) 東京電力に対する自治体による損害賠償請求

 復旧・復興事業と比べて目立たないものの、自治体の復興行財政において重要な取り組みの一つが、東京電力に対する損害賠償請求である。福島第一原子力発電所事故は、自然災害と異なり、人災である。

 福島第一原子力発電所事故の対応に当たり、自治体では、放射性物質の測定や放射線防護対策、被災者の避難対応、水道事業等の放射性物質の検査、汚泥の処理など、さまざまな費用がかかっている。国・県の交付金や、震災復興特別交付税で措置された経費を除き、自治体が負担した経費と、地方税の減収分等が請求されている。

 原子力損害の範囲の判定等に関する指針については、文部科学省に設けられた原子力損害賠償紛争審査会が策定している。同審査会による中間指針では、地方公共団体等が所有する財物の損害、公営企業の損害、被災者支援のための支出を賠償の対象とした。また、個別具体的な事情に応じて賠償すべき損害と認められるものもあるとする。

 福島県では、59市町村のうち56市町村が東京電力に対して賠償請求をしている。郡山市では、一般会計と企業会計を合わせて148億9,129万円の請求を行っている。その規模は毎年度の郡山市における歳出総額の1割弱にあたる。そのうち支払われたのは、24億1,642万円であり、割合にして16.2%と僅かである。

表6 東京電力に対する損害賠償請求額と受領額2011〜2021年度分 (単位:百万円)
会計の種類 項目 請求額 受領額 割合
一般会計等 放射線対策費 1,575 1,067 67.8%
人件費 3,312 195 5.9%
税の減収分 8,452 278 3.3%
使用料減収分 321 2 0.7%
小計 13,661 1,543 11.3%
企業会計 水道事業 1,077 646 60.0%
工業用水道事業 2 2 100.0%
下水道事業 119 193 162.0%
農業集落排水事業 32 32 102.7%
小計 1,230 874 71.1%
合計 14,891 2,416 16.2%
出所:郡山市環境部環境政策課「郡山市の原子力災害対策 第18版」
(注)四捨五入を行っているため、各数値の計は一致しないことがある。